つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 62     (C) 2003 筑波大学生物学類

不定根・側根形成の抑制的な制御機構の解析

小松 悠太 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:佐藤  忍 (筑波大学 生物科学系)


 

【背景・目的】

 高等植物の不定根および側根の形成には、植物ホルモンや傷害などが関与していることが知られている。特にオーキシンや傷害による促進的な機構については、外生投与実験や突然変異体を用いた解析などによって明らかになりつつある。その一方で、根自身がサイトカイニンの一種であるトランス−ゼアチンリボシド等を生産し、不定根形成に対し抑制的に関与する機構が存在することが示唆されているが、まだその詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、カボチャを用いた生化学的解析、シロイヌナズナを用いた遺伝学的解析を行うことにより、不定根および側根の抑制的な形成制御機構の一端を解明することを目的とする。

【方法】

シロイヌナズナ不定根・側根形成異常突然変異体の単離

EMS処理、速中性子線処理M2種子をMS培地(1/2macro)に播いて連続明期、23℃で培養し、不定根・側根形成が多く見られるものを選抜した。選抜した植物体から採取したM3種子を同様の条件で播種し、不定根・側根形成の増加が後代に引き継がれているかの確認を行った。

カボチャ根導管液中の異なる成長段階における各種サイトカイニン含量の測定

播種後6週間目のカボチャの茎を切断し、切断面から出る根導管液を採取した。根導管液中に含まれるサイトカイニン量を調べるために、採取した導管液を80%メタノールに置換したのち、可溶画分をLC/MS/MSにかけた。

不定根形成の阻害活性評価< span lang=EN-US>

播種後7日目のキュウリの胚軸を頂芽から4cmの部位で切断し、その苗条を各種濃度の植物ホルモンを加えた1/20MS培地を入れたチューブに挿した。4日後、胚軸から生えた不定根数をコントロール(1/20MS培地のみ)と比較し不定根形成阻害率を測定した。< /o:p>

【結果と考察】

シロイヌナズナ不定根・側根形成異常突然変異体の単離

速中性子線処理をしたColumbia M2種子を約12,000粒、EMS処理をしたColumbia M2種子を約7,000粒、EMS処理をしたLansberg erecta M2種子を約6,000粒播種した。その内、不定根・側根を多く形成したものが速中性子線処理Columbiaから35系統、EMS処理Columbiaから11系統、EMS処理 Lansberg erectaから19系統得られた。さらに、それらのM3種子を播きM2と同様に不定根・側根を多く形成したものが速中性子線処理Columbiaで1系統、EMS処理Lansberg erectaで1系統得られた。今後はM3世代で不定根・側根形成に異常を示した2系統の解析を行う。また、さらに突然変異体の候補を得るためにM2種子を播き選抜を行う。

カボチャ根導管液中の異なる成長段階における各種サイトカイニン含量の測定

今回の播種後6週間目の植物の結果を、過去に出された播種後3ヶ月のカボチャから採取された根導管液中サイトカイニン濃度の結果と比較したところ、不定根形成に抑制的な活性があるトランス−ゼアチンリボシドでは差が見られなかった。しかし、不活性なサイトカイニンと考えられているシス−ゼアチン、シス−ゼアチンリボシドの濃度は、播種後6週目から3ヶ月目の間で上昇していた。シス−ゼアチン及びシス−ゼアチンリボシドが植物体内で何らかの機能を持つ可能性が考えられた。

不定根形成の阻害活性評価< span lang=EN-US>

10-9, 10-8,10-7Mシス−ゼアチンを与えたところ、キュウリ胚軸からの不定根形成阻害活性は低く濃度による差も見られなかったが、10-6M シス−ゼアチンを与えると明らかな阻害活性が見られた。このことからシス−ゼアチンは不活性ではなく弱い活性を持つことが示唆された。今後はシス体の植物体内での不定根・側根形成における働きを調べるためにトランス体と混ぜ合わせてアッセイを行う予定である。