つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 71     (C) 2003 筑波大学生物学類

霞ヶ浦のコイ消化管内乳酸菌叢の通年変化の解析

田中 大智 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:星野 貴行 (筑波大学 応用生物化学系)


《目的》

 水産養殖では、高密度の養殖が行われ、病害が非常に起こりやすい環境になっている。そのため過剰な抗生物質が投与され、魚肉への残留が懸念される。そこで腸内フローラをコントロールして生物が本来持っている抵抗力を強化するプロバイオティクスという考えに基づき、養殖魚自体の抵抗力を高めることで抗生物質を使わない飼育法が必要であると思われた。本研究室ではコイを用い、プロバイオティクス株の検索と、投与実験による成長への影響を調べている。その前段階として、飼育されているコイの消化管内乳酸菌叢を解析する必要があると考えられた。解析を進めていくうちに消化管内細菌叢は一定したものではなく、季節変化に伴い周期的に変動しているのではないかという考察が得られた。そこで本研究ではほぼ1ヵ月ごとに1年間にわたってコイの消化管内乳酸菌叢を解析することとした。

 

《方法》

 茨城県内水面水産試験場の飼養池、網イケスから、体調 4050 cmのコイを選定し、消化管内容物を生理食塩水に適宜希釈後、乳酸菌培地にプレーティングし、20℃、72時間培養し、得られたコロニーについて16S  rDNA の上流約400 bp のシークエンスによる同定を行った。また、サンプリングされた時期の異なる菌種間で、株レベルでの違いがあるかについての検討をついての検討を、RAPD 法を用いて行った。

 

《結果》

 飼養池から分離されたコイの乳酸菌叢は6月から11月まではLactococcus lactis が優先種、12月にはLactococcus raffinolactis が優先種となることがわかった。また5月にはLc. lactisLc. raffinolactis が約11で存在した。同様な結果が飼養池の飼養水、網イケスのコイの消化管内容物、霞ヶ浦の湖水でも得られた。また、RAPD による菌株の相違については現在検討中である。

 

《考察》

 春季、Lc. raffinolactis Lc. lactis の移行期は水温約17℃、秋期、Lc. lactis Lc. raffinolactis の移行期は水温510.5℃であると考えられる。また、飼養池のコイ、飼養水、霞ヶ浦網イケスのコイの乳酸菌叢が一定していることから乳酸菌は水を媒介として広がると考えられた。