つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 108     (C) 2003 筑波大学生物学類

海洋の沈降粒子に含まれる粘性重合物質に関する定性、定量的解析

和田 茂樹 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:濱  健夫 (筑波大学 生物科学系)


1. はじめに

 現在、人間活動を由来とするCO2の増加に伴う温暖化が深刻な環境問題となっている。海洋は地球上の炭素の巨大な貯蔵庫であり、人為起源CO2の約半分を吸収している。

 海洋における粘性重合物質はその粘着性により、他の重合物質や様々な粒子を吸着し、大型の粘性重合物質粒子(TEPtransparent exopolymer particles)を形成する。TEPは他の粒子に比べて粘着性が高く、その炭素含有量も高いため、高速に沈降する大型の凝集体(マリンスノー)を形成しやすく、大気中のCO2を深海に隔離する役割が大きいとされている。本研究ではTEPの定性、定量分析から沈降粒子へのTEPの関与を明らかにすることを目的とした。

2. 方法

・試料の採取…8月と11月に下田沖(水深約30m)で試料を採取した。表層水はバケツ採水し、沈降粒子は20m25mに設置したセジメントトラップにより採取した。

・炭素量の測定…GF/Fフィルターで試料を濾過し、元素分析計を用いて、測定した。

TEPの定量…TEPをアルシアンブルーと呼ばれる色素により染色した後、色素とTEPの結合物を硫酸により抽出し、その吸光度からTEPを定量した。

・炭水化物の測定…TEPを構成する粘性重合物質は、炭水化物を主成分としている。このため、ガスクロマトグラフィーを用いて、その単糖組成の定性、定量的な比較を行った。

3. 結果

・沈降粒子の比較…今回観察された炭素フラックスは130±13mgC m-2 d-1であり、同海域での先行研究(347±83mgC m-2 d-1:竹内 2000)と比較すると少ないものだった。11月に関しては沈降粒子中のTEPの定量も行った。その結果、沈降粒子中の全炭素にしめるTEPの炭素量は14.5±10.9%であり、他の海域(29.6±13.9%Passow 2001)と比較して低いものであった。

・炭水化物の比較…沈降粒子中の総炭水化物量は総炭素量と比較して低い値を示した。(5.47±1.30%:本研究、33.0±9.8%:竹内2000)。また、表層水の単糖組成は貯蔵性炭水化物であると考えられているグルコースや核酸の成分であるリボースが多かったが、沈降粒子の単糖組成はヘテロ多糖の主成分と考えられるその他の単糖類の割合が大きかった。

4. 考察

沈降比(沈降量/存在量:表層から深層への移送されやすさの指標)はグルコース、リボースが低く、その他の単糖で高い値を示した()TEPは凝集体を形成する上で必須条件の一つあると。そのため、沈降粒子の単糖組成はTEPの単糖組成を反映していることが考えられる。沈降粒子中の炭水化物が主にTEP由来であることは、低いTEP値と低い炭水化物量が同時に観察されたことからも推測され、これらの事からTEPを構成する炭水化物は主にヘテロ多糖から成り、高い移出比を示すことが示唆された。