つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3: TJB200406YN.

卒業してから

永井 有子(三菱化学ビーシーエル株式会社)

 私は平成元年に生物学類に入学して平成五年に卒業後、東京都内に住み、臨床検査等行う会社に入社し現在に至っています。仕事の内容は、HPLC(高速液体クロマトグラフ)、LC/MS(液体クロマトグラフ―質量分析計)、GC/MS(ガスクロマトグラフ―質量分析計)といった分析装置を使って、生体試料中の薬物濃度を測定する事です。製薬会社からの依頼を受けて行い、新薬開発の申請資料となります。私は大学四年生の時に、植物のクロロフィルを抽出しHPLCを使って濃度測定をしていた事もあって現在のような業務に就きました。薬に関する仕事なので、職場は薬学出身者を中心とした理系のメンバーで、今では女性が過半数を占めています。仕事の流れとしては、まず依頼を受けて計画書を作成します。分析方法が無い場合は、参考資料を頼りに予備検討を行い分析方法を確立します。その後は確立した方法に従って前処理・測定を繰り返し、データをまとめて表など作成します。そして報告書を提出するとその試験はひとまず終了、次の薬物についても同様に濃度測定を行います。 

 分析方法の確立には化学、データの解析には薬学の知識が役に立ち、また最近は、英語の計画書や報告書を求められるので英語も堪能だとスムーズに仕事が進められます。でも残念ながら私の場合は、先輩・後輩に教わる事の多い毎日‥勉強する事はたくさんあるけど、学生の時よりも理解に時間がかかり日々の業務に追われる現実です。先に、生体試料中の薬物濃度測定と書きましたが、ラットやマウス、イヌ、ヒトの血漿や尿、時に組織などさまざまです。また信頼性のあるデータを保証するため試料や試薬の管理、記録を厳しく行っています。抽出法については、液液抽出と固相抽出が主です。酸性またはアルカリ性にした後有機溶媒で抽出するか、固相に保持させて抽出しています。 最近の新入社員はパソコンや英語が堪能で優秀なようです。その他、備品の注文やゴミ当番など雑用的な事もきちんとできる人はポイント高いです。それからやっぱり健康管理は大事です。残業が続いたり、体調悪くても休めない場合もあるかも…。

 こんな私でも入社してから10年が過ぎ、その間二回育児休暇をとらせてもらいました。育児・家事・仕事を続けるのは思っていた以上に大変ですが周りの協力を得て、時に手を抜きながらやっています。赤ちゃんって飲んで寝るだけと思っていたら、初めの子は飲むか泣くかでどうしたらいいか分からない事がたくさんあり、赤ちゃんと一緒に泣いていた事もありました。そんな時力になってくれたのは実家の両親で、今でも遠いのに時々来ては手伝ってもらっています。母はもちろん子供の事、家の事申し訳ないくらいやってくれます。父も子供好きでとても助かっています。また職場にも恵まれていて親切な方が多く、この職場だから子供がいても仕事を続けられていると感謝しています。急な病気の他、健診や予防注射、小学校に入ればPTA…残業をあまりしない上に休みは多い方です。だんだんと私も気持ちに余裕がでて子供との生活の中で虫を見つけたりと生物の原点に触れ、楽しく過ごせるようになりました。学生時代にはピンとこない点もあるでしょうが、これからもしも暗いトンネルに迷い込んだりしても、光りがさす出口へと向かっていってほしいです。

Communicated by Hiroshi Matsumoto, Received July 9, 2004.

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