つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200510SS.

特集:学園祭FDフォーラム

生物学類授業評価の進化

佐藤  忍(筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 生物学類では、近年、カリキュラム委員会および学類教育企画室(丸尾文昭室長)を中心に、授業アンケートを中心としたFDに積極的に取り組んできている。ここに、生物学類が双方向型リアルタイム授業評価アンケートを実施するにいたった経緯とその特徴を紹介させていただきたい。

TWINS以前

 学類として組織的に授業評価を行ったのは、平成13年度に必修である12の概論科目に関して、学類で用意したアンケート用紙を使っての学生による授業評価が最初である。平成14年度には、さらに外国語などの共通科目および専門基礎科目に関して同アンケートを行うとともに、概論科目の評点分布(A〜Dまでの成績の割合)の調査を行った。これにより、学生による授業評価の質の高さが確認されたことがポイントとなった。

 一方、教員に対しては、担当している講義、実験・実習に関して、各自が工夫している点や成績評価の基準、授業で配布している資料・アンケート用紙等の提出を求め、「生物学類 授業のエッセンス 2002」として取りまとめた。これらの調査により、ベテラン教員や学生から人気のある教員がどのような授業の工夫をしているのか、全教員で共有できた点が貴重であった。

TWINS利用・第一段階

 以上の紙媒体を用いた調査を踏まえ、平成15年度より、生物学類開講の全ての授業に対してTWINSを利用した学生による授業評価を実施した。その際重要な点は、実施した結果をどのような形で公開し、学生にフィードバックするのかを時間をかけてカリキュラム委員会および学類教員会議で論議し、結果を生物学類が発行するオンライン誌「つくば生物ジャーナル」で毎学期全て公開する(希望しない教員を除く)決定を行ったことである。そこには、3択式の7項目の質問に加え、良かった点、改善するべき点の自由記述も含まれており、学生の生の声が白日の下にさらされた。6割近い高い回答率と共に、そこに記された内容に学生たちの高い見識が示された結果となった。全ての結果がオープンになることは、教員に緊張感をもたらすことは当然であるが、アンケートに回答する学生にも社会的自覚と責任感をもたらす結果となったと思う。また、学生からの意見に対し、「教員からのコメント欄」を設けることで、学生と教員間でのコミュニケーションの場が創設されたことの意義もきわめて大きい。

TWINS利用・第二段階

 しかし、その後の平成16年度にかけてのアンケートでは、教員側からの度重なる呼びかけにもかかわらず回収率の急激な低下(2割前後)が見られた。この原因は、生物学類が先進的に実施している「アンケート結果の毎学期全公開」でも多くの学生は「メリットが労力に見合わない」と感じているからだと考えられた。そこで、アンケートの結果を次学期や次年度の学生に対してではなく、今まさにアンケートに答えている学生にフィードバックするべく、平成17年度より「双方向型リアルタイム授業評価システム」の導入を開始した。教員のFDに加え、学生の授業参加意識の向上も大きな目的の一つである。特徴は、学生によるアンケート(3択式の2項目(自身の取り組み、満足度)、良かった点・改善するべき点の自由記述)および教員からのコメントの入力と集計結果の閲覧が、学期当初から何時でも、その科目の履修学生と担当教員にオープンとなった点である。残念ながらこの新しいシステムは一学期の途中から実施可能となったため、その機能をフルに活用して毎時間の授業にフィードバックできた教員は少なかった。

 2学期からは、さらに「質問コーナー」を設け、授業中に質問できなかった点や、後で気づいた点を記述できる機能が付加された。この質問には、教員がコメント欄に返答を記入してもよいし、次の授業において口頭で答えることも可能である。これにより、学生がこのシステムを利用するメリットは究極にまで高まったと思われる。後は、学生がどれだけ真剣に授業に取り組み、学問を追及しようとしているかにかかっていると思う。無論その学生の熱意に教員側がどれだけ応える意思があるのかも重要である。

TWINSの未来

 最後に一つ残るこのシステムの最大の問題は、手間がかかる点である。わざわざ端末の前に座ってシステムにアクセスする必要がある。この点は近々自宅からのアクセスも可能になることで改善されることが期待される。しかし、「双方向・リアルタイム」のメリットは、まさに授業の行われている教室でこそ発揮されるべきものである。この点で、携帯電話はこのシステムに新たなる可能性をもたらす現代の神器となりうると思う。多くの教員は、授業の最後に質問の時間を設ける。この時間に携帯によるTWINSへのアクセスができるようになれば、教員と学生の間のコミュニケーションに格段の向上が望めるはずである。システム開発をぜひお願いしたい点である。一方で、携帯を使いこなせない旧人類の私は、「生の対話」こそが本来の姿であると思っているのだが・・・。

 最後になるが、TWINSシステムに対する生物学類の度重なる要求の実現に尽力して下さっている筑波大学TWINS運用委員会に心より御礼申し上げたい。

Contributed by Shinobu Satoh, Received October 12, 2005.

©2005 筑波大学生物学類