つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200503KM.

特集:卒業

卒業にあたって

森下 恭子(生物学類 4年生)

 あっという間に4年という時間が流れてしまった。つくばに来て間もない頃の景色や人、自分をいまだ鮮明に思い出せる。宿舎に引っ越し買ったばかりの自転車に乗って学校周辺を探索した時の映像、入学式で友達になったばかりの人との会話、一人暮らしが心細く目の前の食事がおいしく食べられなかったこと、どれもが4年も前のこととは思えないくらいくっきりと記憶に残っている。本当に4年間も時間が経過したのか?と思いたくなるほどにあっという間の大学生活であった。しかし、入学当時の自分と今の自分を比べてみると、これまでに自分に様々な面での変化があったことが感じられる。また、自分の中に詰め込まれた時々の記憶も、確実に4年という時間が流れたことを自覚させる。個性的な先生方による授業、データがとれずいつも苦労した実験、開放的な海辺での臨海実習、どれもそのときには必死で、卒業を迎える時まで色濃く記憶に残るとは思わなかったが、苦労し夢中になった時のことはくっきりとした思い出になった。また、サークルで新しく始めたスキンダイビングでは、海がみせる美しさに感動し、あらためて自然の尊さを強く感じるという忘れがたい体験もした。また、ボランティアやバイトなどでも様々なことを感じ、学ぶことも多かった。

 振り返るとさまざまな思い出が残っているが、私の大学生活には1つの大きな目標があり、それを中心に多くの経験を積んできたと思われる。私は、卒業後に高校の生物の教師になるという目標をもって筑波大学に入学した。自分が感じたような生命現象の面白さを子供たちにも魅力的に教えることができるような教師になりたいと考えていた。そこで、この目標のために、大学生活を通してさまざまな場面で意識的にいろいろなことに取り組むようにしてきた。まず、他学類の授業も履修できるという筑波大学の特色をいかし、必修の教職に関する授業以外にも役立ちそうな人間学類の授業を数多く履修した。これによって、教育に関してより多くの知識を得ることができ、また、毎週授業を受けることで教職に対して自分の意識を常に高めておくことができた。さらに、教職に関して自分なりの考えを深め、生徒と話をすることがでる、すなわち、心や考えていることを理解してあげることができるような教師になりたいという新しい目標も持つことができた。この新しい目標のために、日常で他者と関わるときにも相手の言いたいこと、考えていることをできるたけ理解できるように話し方や接し方に気をつけるように意識するようになった。また、教師は生徒の人生に大きな影響を与えうる存在であるため、自分の人格について日々見つめなおすようにした。そのとき非常に重要であったのが他者の存在であった。他者と関わることで、自分と異なる考え方・価値観に触れることができ、自分の気付かなかったことや弱い部分を明らかにし、自分自身への理解を深めることができた。そして、自分を振り返ることによって、また時には友人に相談することによって何が必要で何をすべきであるのか、自分の行動・考え方について見直す機会を多く持つようになった。本当に他者と関わるということは、自分にとって刺激的なことであり、付き合いの深さに関係なく、私に多くの発見を与えてくれたと感じている。そして、幸いなことに私は大学生活の様々な場面において数多くの個性的な人達と出会うことができ、多くの影響を得たと感じている。また、自分への反省によって、教職に役立ちそうなボランティアやバイトなどにも挑戦し、自分を変えていけるよう努力することもできた。これら自分が行ってきたことは、すべてが自分の目標に直接的に役立つものになったわけではなかったが、色々なことに意識的に取り組んだことは何かしら自分に変化をもたらしてくれたと感じている。

 こう書くと、大学生活は教職に向けてひたすら頑張ったという印象を与えるかもしれないが、やはり、多くの反省がある。やっておけばよかったと感じることは考えれば無限に出てくるし、後悔することも数知れない。4年間という長い時間の中で、できなかったことが沢山あるのは残念に感じるが、今後の課題として忘れることなく心に留めておきたい。

 また、最初に書いたようにこの大学生活を通して自分の中に変化が生じたが、目標に関しても大きな変化があった。教職という目標に向けて過ごしたおよそ4年間という時間であったが、その過程で経験したことから、教職とは違った新たな目標を見つけることができた。これは予想外の出来事ではあったが、この新しい目標の実現に向けてまた頑張りたい。最近、年齢重ねるにしたがって自分にかかる責任の重さも大きくなってきているのを感じるが、今後ますますこの傾向が強まるだろう。大学生活は保護された世界であったが、これからは必死に自分で自分のことを生かすために努力していかなくてはならないと思う。卒業は華やかなイメージではあるが、厳しい社会へまた一歩踏み出すためのスタートである。今のこの覚悟にも似た気持ちを忘れずこれからの新生活に向かいたい。

 

Communicated by Jun-Ichi Hayashi, Received April 5, 2005.

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