つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200504YY.

特集:入学

“恋人”を見つけよう!

山岡 裕一(筑波大学 生命環境科学研究科)

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。数ある大学、学部(学類)の中から、筑波大学の生物学類を選び、入学してくださった皆さんを心から歓迎いたします。入学されたからには、この大学に入ってよかった、この学類を選んでよかったと思える、充実した学園生活を送って頂きたいと思います。では、充実した学園生活を送るためには、いったい皆さんは何をしたらよいのでしょうか?そのヒントになればと思い、皆さんにこのメッセージをお送りします。

 入学式以降、多くの先生方から祝辞やメッセージを受け取ったことと思います。その中で、与えられるものをただ覚えるだけの受け身の姿勢から、興味を持ったことに積極的に取り組み、自ら情報を集め掘り下げていくという、本当の勉強の方法を学んでほしいということがあったかと思います。皆さんは生物学を勉強したいと思って、この学類に入学されたことと思います。生物学といっても様々な分野がありますが、その中から自分がおもしろいと思える分野が見つかったら、あるいは、もしかしたらおもしろいかもしれないと思ったら、授業だけにこだわらず、自ら情報を集めて真の勉強をしてみてください。本を読むこともよいでしょう。インターネットで調べるのもよいでしょう。おもしろそうな研究をしている先生を訪ねてみるのもよいでしょう。授業では聞けない、さらに踏み込んだ話が聞けるかもしれませんし、実際に皆さんの先輩方が行っている実験を見せて頂けるチャンスがあるかもしれません。講演会、セミナーに参加してみるのもよいでしょう。授業は、皆さんが興味を持ってこれから勉強していく分野を探すための大切な情報源ではありますが、きっかけにすぎないかもしれません。皆さんの回りには、様々な情報のソースが存在します。

 時に、情報ソースがあまりに多すぎて、どれをどうやって選べばよいか困ってしまうこともあるでしょう。あふれる情報の中から、自分がほしいと思う情報を適切に選び出す方法を学ぶことも、皆さんにとってたいへん重要なことです。朝起きて、授業にでて、先生が黒板に板書したことをただノートに写し、それをただただ覚える。そんなつまらない生活にならないよう、精力的に学習に取り組んでください。

 反対に、あれもおもしろそうこれもおもしろそうと、いろいろなことに興味がわいてくることもあるかもしれません。それはすばらしいことではあるのですが、そのすべてについて完璧にこなそうとがんばりすぎないでください。1日は24時間、1年は365日、我々の体は一つ、頭も一つ、手足は二本。限られた時間にできることにはどうしても限界があり、あまり欲張りすぎると今度はパンクしてしまいます。気合いを入れてがんばるところと、ゆるめるところを作るバランス感覚を養うことも重要なことです。

 もう一つのメッセージ、それは「恋人を見つけなさい。」ということです。これは、私が高校卒業するときに恩師が卒業生にくださった言葉です。この言葉を私から皆さんへお送りします。この言葉を聞いたとき、私も「大学生活を楽しくするために彼氏(彼女)を作りなさい?ずいぶん大胆なこと言う先生だな。」と思ったのですが、真意は少々異なりました。もちろん彼氏、彼女ができましたら、それはそれで結構なのですが。この言葉が意味することは、「自分が一生愛し続けることができる本当に好きのものを見つけなさい。」と言うことでした。自分が本当に愛している“恋人”のために何かをするとき、人から強制されて何かをしますか?面倒だからといって嫌々それをしますか?多少大変なこと、つらいことがあっても自ら進んで取り組むことができるでしょう。自分が心の底から夢中になれる“恋人”を見つけてほしいのです。

 本当に好きなものが勉強(生物学)や仕事、ボランティア活動であってももちろんよいのですが、一生愛し続けられる本当に心の底から楽しめるもの、スポーツでも、音楽でも、他の人にとって見れば何気ない趣味でも何でもよいのです。“恋人”を見つけてください。これからの長い人生、順調なときもあれば、挫折することもあるでしょう。そんな時でも自分がほんとに愛している“恋人”がいれば、失敗にくじけず、またがんばってみようという気になれるでしょうし、また、反対に苦しい自分を支えてくれることもあるでしょう。すでにその“恋人”あるいは“恋人候補”を持っている方は、今後も大事にしていってください。もしまだ“恋人”が見つかっていない方は、この大学にいる間に是非見つける努力をしてみてください。自分が興味を持った真の勉強、研究を進めるうちに見つかるかもしれませんし、サークル活動やボランティア活動を通して見つけられるかもしれません。チャンスはいつ訪れるかわかりません。一人で引きこもらず、色々な人に会い、色々なものにふれ、“恋人”を見つけてください。充実した学園生活を送れるどころか、これから先の人生が楽しく豊かなものになりますよ。

 最後に、もう一言。この大学の利点を活用してください。この大学は総合大学。しかも一つのキャンパスにたくさんの学類、学群が集まっているため、異なる分野の学生とサークルや委員会活動等を通して知り合いになり、交流する機会も自然に多くなります。専門分野が異なると、物の考え方がずいぶん異なるもので、それを肌で感じるのもなかなか楽しいものです。また、海外からの留学生や研究者も多く、交流のチャンスも自然に生まれてきます。お互いの文化の違いや考え方の違いを知ると同時に、それを認め合った上でコミュニケーションをとることの重要性がわかると思います。国際性が求められている皆さんにとって、その感覚を磨く恵まれた環境と思います。大学の周辺には、独立行政法人(もと国立)の研究所がたくさん集まっており、一般公開も行われていて、その時には皆さんが気軽に最先端の研究情報や施設に触れることができます。この大学には、これらの研究所の研究者と交流のある先生方がたくさんおり、その先生方を通じて、皆さんにとっても研究交流の範囲を拡大していくチャンスがあります。

 宿舎と授業が行われる教室だけを往復していても一日は過ぎます。それを毎日毎日繰り返していても生活をすることはでき、卒業することもできるかもしれません。しかし、皆さんが4年後卒業するときに、この大学にいた4年間で自分はいったい何をしたのか、何を得たのかと考えたとき、納得いく答えが得られるよう充実した学園生活を送ってください。そのためにこの恵まれた環境を是非活用してください。まずは、“恋人”探しから、いかがですか。

Contributed by Yuichi Yamaoka, Received April 25, 2005.

©2005 筑波大学生物学類