つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200506KM.

特集:下田臨海実験センター

私の新天地

水野 克俊(筑波大学 生物学類4年) 

 2005年4月から稲葉一男先生の研究室で卒研生として下田臨海実験センターに常駐して研究をすることになった。まだセンターの中で生活するようになってから日が浅く、下田については初心者である。そのため、下田について詳しく語るのではなく、なぜ僕が下田に来ようと決心したかについて書こうと思う。

 下田に来ることが決まったとき、周りの友達はみな意外そうな顔で「何で下田なの?」と聞いてきた。どうやら僕は余り「海!」というイメージではないようである。実際僕も大学に入学した当初は、まさか自分が臨海実験センターで研究をすることになろうとは想像もしなかった。
 そんな僕が臨海実験センターに所属することになった一番のきっかけは臨海実習である。僕がはじめて受けた臨海実習は二年生の五月にうけた動物分類形態学臨海実習だった。実習中は毎日とても楽しく、磯採集やドレッヂなどで陸上には見られない生き物をみては、「海の生き物というのは面白いな」と感動した。

 そのようなときに、二学(第二学群)の掲示板で他大学における公開臨海実習の募集の掲示を見たのである。単純に「単位をもらえるうえに、ついでに旅行までできる、素晴らしい!」とおもった僕は北海道大学の厚岸臨海実験所で開講されていた公開臨海実習「海洋発生生化学コース」の実習に参加することにした。夏の北海道に行ってみたかったのである。

 この実習はエゾバフンウニやイトマキヒトデをつかって放卵から卵成熟、受精、初期発生などの現象を扱ったものだった。実習は10日間近くあり毎日朝から晩まで盛りだくさんの内容で、また参加人数も10人に満たない少人数だったのでほとんど全ての作業を自分ひとりで行うことができ、また個々の実験について全員でディスカッションすることができた。北海道に行きたいという不純な動機でうけた実習だったが、先生や他の実習生の刺激を十分に受け、非常に満足いくものだった。特に、最後に行った自由研究は夢中になって取り組んだ。僕は「先体反応の誘起」をテーマに選び、結果こそうまくいかなかったが、思えばこれが僕が“受精”という現象に興味をもったきっかけであるように思える。お世話になった北海道大学の佐野先生、中村先生には心から感謝している。この経験で味をしめた僕は、その後も臨海実習を取りつづけ、生物学類で開講している臨海実習は計三回、公開臨海実習は計五回も受講することになった。ちょっととりすぎたと反省している。

 三年になり、所属する研究室をどこにしようかと考えはじめていたときに東北大学から新しく赴任されてきた稲葉先生の事を知った。稲葉先生がホヤの精子について研究されていると聞き、ぐっときた僕は発生学臨海実習のついでに研究室の見学をさせていただくことにした。人見知りする性格で余りしゃべらない僕に対して、稲葉先生は親身になって丁寧にセンターの案内や研究の説明をしてくださった。住み慣れたつくばや友達から離れて遠い下田で生活することに漠然とした不安は抱いていたが、三年になって引っ越してきたばかりのアパートを引き払って下田に移住しようと決心したのである。

 下田臨海実験センターは全国の臨海実験所と比較しても広く施設も充実している。また、学生の数も大幅に増えて活気に満ちているように思える。なによりも僕にとってうれしいのはその環境である。歴史ある下田の町並みと美しい自然が共存し、夜には美しい星空を眺めることができる。特に研究室から見える鍋田の浜と湾の景色は素晴らしいものである。このような環境の中で、以前に抱いていた不安など忘れて毎日わくわくしながら楽しく勉強、研究をさせていただいている。

 最後に、臨海実習へのお誘いをしてこの文章を終わりたいと思う。幸いなことに生物学類ではたくさんの臨海実習が開かれている。是非、一度といわずに何度も下田の臨海実験センターを利用していただきたい。普段では体験することのできないわくわくするような経験をすることができると思う。 

Communicated by Kazuo Inaba, Received June 24, 2005.

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