つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200508KY.

特集:大学説明会

菅平高原実験センターの紹介

 八畑 謙介 (筑波大学 生命環境科学研究科、菅平高原実験センター)

 菅平高原実験センターは、生物系山岳実験所としては国内随一の教育と研究を目的とした施設です。1 年をとおして 3 名の教官、 5 名の事務官・技官が勤務しており、微生物学と動物学に関連する 3 つの研究室があります。これらの研究室では、微生物の生態と分類学の研究、昆虫類と節足動物の比較発生と比較形態学の研究が行われています。また、菅平高原実験センターでは、35 ヘクタールもの広大な敷地と充実した設備を利用して、「生物多様性」や「環境」に関わる研究が進められており、国内外で高い評価を得ています。常時 10 名以上の学類・大学院生が構内の宿泊施設に寝泊まりしながら卒業研究や大学院研究を行なっているほか、他の大学や研究機関によって、さまざまな実習やセミナーなどの開催に利用されています。

 本実験センターのある菅平高原は、本州のほぼ中央、長野県の北東部に位置しており、上信越国立公園の一角にあります。夏でも滅多に最高気温が 30℃ を超えることのない冷涼な避暑地として知られ、高原野菜の産地として、スポーツ合宿のメッカとして有名です。冬期には -30℃ 近くまで気温が下がることもあり、スキー場としてもよく知られています。菅平高原の中央部の標高 1250 メートル付近には高地湿原が、また高原の周囲には標高 2200 メートルを越える根子岳と四阿山の 2 峰があり、この 1000 メートルを越える標高差の間に、中部山地帯から高山帯にいたる多様な自然環境を見ることができます。

 このような菅平高原の中で、本実験センターは標高約 1,320 メートル付近に位置し、35 ヘクタールもの広大な敷地内には、ススキ草原、シラカンバやアカマツやミズナラなど遷移段階の異なるさまざまな植生の自然林、渓谷林、200 種を越える樹種を集めた樹木園を備えています。もちろん、ニホンリス、トウホクノウサギ、ホンドギツネ、ホンドタヌキ、ニホンカモシカ、さまざまな野鳥など、多種多様な野生動物もこの敷地内に生息しています。冬には雪に覆われた草原などに、これらの動物たちの多数の足跡を観察することもできます。このように本実験センターは、本州中部山岳地帯における自然誌教育と研究に、とても理想的な場所にあり、かつ理想的な環境を備えているのです。

 このような自然環境の素晴らしさだけでなく、本実験センターは充実した研究設備、実習設備、支援設備も備えています。研究設備として、DNA 塩基配列解析装置、光学顕微鏡内蔵透過型電子顕微鏡、光学顕微鏡内蔵走査型電子顕微鏡、最新の研究用万能顕微鏡などが、実習設備として、30 名以上の実習も可能な実習用の生物顕微鏡や実体顕微鏡、双眼鏡、実習用の図鑑類などが、支援設備としては、自動気象観測装置、採集調査や構内の整備に利用される四輪駆動車やトラクターなどが、常に利用可能な状態で整備されています。本実験センターの長年に渡る気象観測データは、さまざまな分野の研究者に利用されており、また、一般公開されている樹木園は、研究や実習の目的以外にも、毎年数多くの団体や個人の方たちの学習の場として利用されています。

 本実験センターでは毎年 8 月に高校生対象の公開講座を開講しています。この講座の受講生の方なかから、毎年数人が一般入試あるいは AC 入試や推薦入試で筑波大学生物学類へ入学されています。 これから筑波大学生物学類を目指す高校生のみなさん、チャンスがあれば、ぜひ、この公開講座に参加して、実際の菅平高原実験センターを体験してみてください。

 この生物学類説明会が開催された当日、菅平高原実験センターでは生物学類生のための野外実習が行なわれていました。生物学類の 3 年生達が目を輝かせ、担当教官やティーチングアシスタントの大学院生の指導のもと、菅平高原実験センターの豊かな自然の中で昆虫類などの野外採集を行ない、あるいは屋内施設で観察や学習を行なっていたのです。大学説明会に参加されたみなさんのなかから、将来、生物学類生として菅平高原実験センターでの野外実習に参加される方や卒業研究をされる方がいらっしゃることを楽しみにしています。

http://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/


1.実験・研究棟の正面


2.菅平高原実験センター敷地の航空写真


3.夏期に行なわれている野外実習の様子(動物分類学野外実習)


4.冬期に行なわれている野外実習の様子(生物学野外実習)


5.高校生を対象とした公開講座の様子


大学説明施設見学会:菅平高原実験センター(研究展示)

Contributed by Kensuke Yahata, Received August 12, 2005.

©2005 筑波大学生物学類