つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2005) 4: TJB200508SS.

特集:大学説明会

ようこそ筑波大学生物学類へ

 佐藤 忍(筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 本日は台風の影響が未だ残っているなか、大勢の皆さんにお出でいただき、大変ありがとうございます。また、同伴のご父兄の皆様、ご引率の先生方も大変ご苦労様です。これから筑波大学生物学類の説明を進めてまいりますが、まずお手元のパンフレットをご覧ください。このパンフレットは、在学生が高校生に分かりやすい学類案内を目指して企画したもので、月曜日に届いたできたてほやほやです。活用して頂ければ幸いです。また、今日一日では限られた時間ですので説明も行き届きません。お帰り後、最後のページにでている「生物学類ホームページ」と「つくば生物ジャーナル」のURLにアクセスし、授業内容や生物学類の日頃のアクティビティーをぜひご覧ください。

 さて、現代は「生物学の時代」と言われています。私はその理由は二つあると思います。まず第一は、生物学の歴史からです。ご存知のように、約百年前、メンデルの遺伝法則が認められ、その後遺伝子の本体の解明が長い時間をかけて行われ、ついに約半世紀後にワトソン・クリックによってDNA二重らせん構造が解明されました。それでも、ゲノムに書き込まれた膨大な遺伝情報を全て読みとることは、火星に降り立つよりも難しいと長い間思われていました。しかし、技術の急速な進歩のおかげで、我々はついに近年になって、人間を初めとする多くの高等生物のゲノム全塩基配列を手に入れることができたのです。長い間生物学者が夢見た生物の設計図が手に入りました。ところが、その設計図を見ても生命を理解することができないことが分かってきました。今、ゲノムに書き込まれた情報をどう読み解くか、ポストゲノムと呼ばれる研究が活発に展開されています。我々は幸運にも、そんなエキサイティングな時代に遭遇できたのです。また、このゲノム情報は、今まで余り遺伝子とは関係ないと思われていた、系統分類学や生態学などの生物多様性分野の研究でも盛んに用いられるようになってきています。

 第二は、社会からの要請です。新聞やテレビを見ると、生物に関連するニュースが毎日のように流れています。鳥インフルエンザ、牛海綿状脳症(狂牛病)、再生医療、遺伝子組み換え作物などなど分子生物学やバイオテクノロジーに関わる問題に加え、ブラックバスなどの特定外来生物の影響や地球温暖化による生物の生息可能域の変化など、生物多様性や生態系に関わる諸問題も大きな社会問題として取り上げられています。しかし、どれだけの人たちがこれらの報道の意味するところを正しく理解できているのでしょうか。ここにおいでの皆さんはご承知のように、これらの問題の正確な理解には生物学の知識が欠かせません。またそれに伴い、生物学の知識を有する人材、生物学の研究を理解した人材が必要とされる職種も大きく広がってきています。生物学はまさに今社会から必要とされる学問となっているのです。

 そのような中、皆さんはどのようなきっかけで生物学を学びたい、生物学類に入学したいと思ったのでしょうか。子供の頃からの昆虫マニアや、教科書で学んだ遺伝法則や胚発生様式の美しさに魅了された人もいるでしょう。また、医学や農学のように初めから応用を目指すのではなく、生物学という基礎学問を学んだ上でその知識を社会に役立てたいと考えている人もいることでしょう。どの方も大歓迎です。皆さんは、とにかく大学で生物学を学び、生き物の神秘にどっぷりとつかり、それを追究してみたいという純粋な気持ちを胸に抱いていることと思います。その気持ちこそは、我々が最も大切にしているピュアーサイエンスの精神なのです。現代生物学の発展をもたらしてきた偉大な研究者達もこの精神をもって、生き物の不思議を追求してきました。皆さんもぜひ、筑波大学生物学類に入学し、我々とともに、生き物に対する飽くなき興味を追求し、生物学の魅力を存分に味わってください。そして我々とともに生物学の先端に立ってその開拓に参加してみませんか。我々一同は、そんな皆さんの入学を心よりお待ちしています。

 生物学類に入学すると、1〜3年次の講義や実験・実習を通して生命現象の本質を理解したうえで、4年次の卒業研究において生物学研究の方法とその意味を学びます。研究に決まった答えはありません。自分で問題を探し出し、その解決方法を模索する、これこそが研究の醍醐味です。その結果、新しい真実がつかめた時の喜びは何物にも変えられません。しかし、進歩の著しい現代生物学ではその修得に一年間は十分とは言えません。そこで8〜9割の学生が大学院に進学して更に研究を深めます。我々は、そのような学生に、できれば大学教員となって学生達とともに先端生物学研究を牽引する人材となって欲しいと願っています。また、国公立の研究機関や民間企業の研究員となって、先端科学を発展させ、社会にその成果を役立てていって欲しいと願っています。一方、生物学の研究成果を正しく、分かりやすく世の中に伝えることも我々の重要な使命です。その意味で中学高校の教師、博物館の学芸員、サイエンスライターなどの人材養成も生物学類の大切な教育目標となっています。特に、学問の日々の進歩に対応して最先端の科学を分かりやすく生徒達に伝え、科学の楽しさを子供達に広める重要な役割を負う教師には、大学院において研究に従事した学生にぜひ進んでいってもらいたいと考えています。このように生物学類では、生物学の知識を有するばかりではなく、生物学研究の意味を理解した職業人として、産業界も含めた幅広い分野で活躍できる人材の養成を目指しています。

 今日これから午前中はカリキュラムの説明などのプログラムが組まれていますが、午後からは、生物学類の担当教員による研究紹介の様々なメニューが用意されています。教員や大学院生が自分たちの研究を熱く語ります。大学における先端研究の一端に触れ、自分が面白いと思える物を見つけてください。そしてもし疑問が生じたら遠慮しないで質問をしてください。今日が皆さんにとって実り多い一日であることを願ってやみません。そして今日一日を十分にエンジョイしてください!


大学説明施設見学会:相談室  

Contributed by Shinobu Satoh, Received August 6, 2005.

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