つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200604SS.

特集:入学

主体的な存在たれ!

佐藤  忍(筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 皆さん入学おめでとうございます。既に新歓委員の先輩方の歓迎を受け、新しい大学生活のスタートに胸を躍らせていることと思います。そんな皆さんを我々教職員、在学生一同は心より歓迎します。大学生活を大いにエンジョイしてください。

 さて、そもそも大学とは何をする場なのでしょうか?皆さんはすぐに勉強する場に決まっていると答えるかもしれません。しかし大学は「勉強」ではなく「学問」をする場です。高校までの、与えられたものを如何に上手く自分のものとするかではなく、自分自身が何を考え、何を作り出していくのかが問われるのです。我々教員は、皆さんに最先端の生物学を授業という形で提供します。しかしそれは学問の入り口にすぎません。なぜならば授業は限られた時間の中で、限られた人間が限られた見解や学説を述べるものだからです。皆さんは教員の述べたことを鵜呑みにするのではなく、自分自身でその論理を考証し、また他の学者はどう考えているのか書物に当たってみてください。興味のある分野に関しては、大学の内外で開かれる講演会やセミナーに参加してみてください。学問に正解がない事に気づく事でしょう。また、大学は、学問に限らず、政治や芸術など様々なことに対して自分自身の考えを形成する場でもあります。今までの生活ではそのような余裕があまりなかったと思います。ぜひいろいろな事を考え、論理的に自分の意見を述べる訓練をしてください。そのような論議の場は、授業や友人との会話、サークル活動等の中にいくらでも見出すことができるはずです。

 一方、大学生である皆さんは、社会に対しても目を向ける必要があります。21世紀は生物学の時代と言われるように、BSE、ES細胞、鳥インフルエンザ、遺伝子組み換え作物、地球温暖化、生物多様性など、生物学に関連した社会問題が毎日のように報道されています。またそれ以外にも、教育問題や国際問題を始め最高学府で生物学を学ぶ皆さんが見解を問われる場面が多々出てきます。日ごろから新聞に目を通し、多くの書物に触れることで教養を高め、社会性を身につけていくことが大切です。

 今ここで述べてきたことは、つまり、受身ではなく「主体的な存在」になれということです。そのことで皆さんは高校までの生徒から「学生」となるのです。今日から皆さんは自分達のことを学生と呼んでください。そして、最高学府で学ぶ者としての自覚を持ち、筑波大学生物学類の学生として誇りをもって大学生活を送っていってください。

 さて、大学は教育以外に研究の場でもあります。我々教員は皆さんに授業を提供するかたわらで、各々の専門分野で世界の研究者としのぎを削っています。そこで得た最新の情報を授業を通して皆さんに提供することが大学教員の醍醐味であり、大学教育の本質です。今も研究室では大学院生が日夜研究にいそしんでいます。皆さんも4年生になると研究室に所属してその研究の先端に立つことになります。しかし慌てることはありません。それまでの3年間じっくりと実力を身につけてください。自分で物を考えることのできる主体的な「学生」となって研究室に来てください。皆さんは今まさにそのスタートに立っているのです。世界に誇れる筑波大学生物学類を一緒に作っていきましょう。

Contributed by Shinobu Stoh, Received April 12, 2006.

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