つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200605SE1.

自分を知ろう!人生哲学。

TJB学生編集部 (筑波大学 生物学類)

 私たち大学生は入学の4年後、大学院に行く人はその数年後、必ず就職という壁にぶつかります。そのとき多くの人が「就職活動」をして社会へと出ていきます。しかしここで疑問が生じます。就職という壁にぶつかって初めて自分の入れる会社を探し、とりあえず多くの会社の面接を受け、受かった会社に入る、という「就職活動」によって自分の職業を決めていいのでしょうか? 社会が求める人、それは「自分とはどんな人間か」を知っている人です。私たちは大学に入ることで自由に使える多くの時間を得ています。この自由な時間に何をするか、何を考えるかによって4年後の自分が変化するのです。入学してできるだけ早い段階からどのような大学生になるべきかを考え、いろいろなことに挑戦し、「自分とはどういう人なのか」を知る。これは自分がどんな職業につきたいのかということを考えるきっかけとなります。そしていざ就職、となったときに自分なりのビジョンが見え、会社から「選ばれる」のではなく会社を「選ぶ」人になることができるのです。 今回の連載企画が、つくば生物ジャーナルを読んだ方にとって自分について考えるきっかけの1つとなれば幸いです。

 「仕事じゃないよ、人生なんだよ」

 私たち大学生は、どうしても、就職を考えなければいけないと思いがちである。そんなとき、田中美絵さんは、こんな言葉をかけてくれた。 つくば生物ジャーナル学生編集部が、ライターとして活躍する田中美絵さんのお話を伺ってきた。 田中さんは朝日新聞紙上の朝日求人欄日曜版「仕事力」、月曜版「あの人とこんな話」というインタビュー記事を担当。映画や化粧品の広告、テレビコマーシャルもこなす。 彼女の仕事のスタートは、広告制作プロダクション株式会社「案」への就職。「案」は朝日新聞の仕事を多く手がけていて、田中さんもその担当となった。20年前に独立してからも今日まで、広告のコピーライティングの仕事と取材記事の両方を続けている。 そんな彼女から、仕事の達人に会ううちに気づいたこと、そしてそこから見いだした、就職活動に悩む学生たちへのアドバイスを聞いてみた。

 会ってきた中で誰が印象深かったか? たくさんの人に会ったから忘れちゃった(笑い)。例えば女優の藤原紀香さん、実は彼女、ミス日本グランプリだったんですよ。だけど、阪神・淡路大震災の時に、自分が泥だらけ傷だらけになるのも構わずボランティアに奔走したらしいの。一段落ついてから、震災の被害にあった人に何ができるか考えたのだそう。それで、テレビに出てみんなに元気を送ろうって決めた。私が彼女にインタビューしたのはデビューしてから3ヵ月たった時だけど、彼女、信念みたいなものがあって、ボクサーみたいな瞳をしてたわ。相当強い覚悟で東京に来たんだなってわかったの。

 セーラ・カミングスさんは、とてもエネルギッシュな方でした。日本はとてもいいものを持っているのに、西洋などにとらわれて、自分たちの良さを引き立てることができていない。彼女はそのことに憤慨し、日本の良さを対外的に掘り起こそうと決めたそうです。日本の酒に興味を持った彼女は、当初、造り酒屋の杜氏たちから「外国人の女性」ということで相手にされないことも多かったが献身的に働きました。彼女に聞いてみると、自分を受け入れてくれなかった酒つくりのおじさんたちを、それでも「かわいい」と言うんです! 彼女に対しては冷たくても酒樽の前に立つと途端に表情が柔らかくなる、あれがかわいいんだとか。

 ジェームズ・ラブロックさんにもお会いしたことがあるんですよ。オメガの広報部の知り合いがラブロックさんの来日を教えてくれて、どうにか取材の時間を取っていただけたんです。お会いして話を伺ったんですけど、話していくうちにどんどんテーマが大きくなりすぎちゃった。もっと具体的にお話を伺いたかったですね。私にとっては、50分の取材時間でつかみきれなかったという悔いが残る人でした。学問的に巨人といわれる人の場合はやはり奥が深すぎてその人のすべてをわかることができないんですよ。本当に悔しい。

 取材させていただいた突出した方々は、自分のやりたいことがはっきりしていて、しっかりしたビジョンを持っている人が多いですね。あとは、詰めが厳しく努力家、という方もよく見受けます。紀香さんもそうだったと思います。もうひとつ、名をなす人はたいがい陽気ですね。生命力あふれるというんでしょか、中国でいう「腎気(ジンキ)」みたいなものでしょうか。セーラ・カミングスさんはその典型ですね。

 そういう方々にお目にかかってきて、優れた資質はどう形成されたかを参考に考えると、学生から社会人へ移っていく中で食わず嫌いはしないに尽きます。とにかく自分の知らないことをたくさん仕入れることです。それと、なぞり学習だけで学ぶのはよくない。今は生身で学ぶことが少なくなってきていますが、だからこそ、何かにじかに触り、体験するべきですね。

 自分を決めつける、先入観を持つのもあまりオススメしません。いつもとは違うものに触れて知り、新しい自分になる。そうやって自分を決めつけることなく生きることで、生き方の幅が広がると思います。

 先ほどまで有名人の話ばかりしていましたが、マスコミに取り上げられない身近な人も素晴らしいものを持っています。とにかく人に会い、話を聞くことは生きる糧になります。

 あと、最近の若い人は部屋に引きこもっている人がいるそうですが、それでは、自分から出てくるものとしか対峙しないことになります。世の中には自分以外の人やものがあふれています。そういうものに慣れるという意味でも「自分の外に出て行く」ということは大切です。そして出会った人が自分に先入観を持っていたとしたらなおさら、自分ではないほかから出てきたものに出会うことは、自分探しにもなりますし、自分の世界が広がります。

 長くなりましたが、まだあります(笑い)。誰にとっても、体系だって整理されているものは学ぶのが楽だと思います。それは勉強しやすくするために整理したのですから当然です。しかしそうではない、雑多としたものからこそ学べるものはたくさんあります。確かにわかりづらいし物怖じしてしまうかもしれません。でもだからこそやる価値があるんですよ。

 最後に、もうひとつ! 人から言われたことが自分に与える影響は強力ですね。ジャニーズJr.のアイドルでも、家族が勝手に申し込んでしまって受かった人がいるでしょう。さすがにそこまではいかないにしろ、自分以外の人から言われた一言は意外と的を射ていて的確なのですよね。それが肯定的なものなら自分を高める原動力にもなったりする。たまには自分を褒めることも大事ですよ。そして自分を褒めてくれる人は大切すべきですね。

 難しいと思うかもしれませんが、とにかく、あまり考えたりとらわれたりしすぎずに、やりたいことをやればいいと思います。自分の好きなことには、あふれるほどの栄養を与えて育ててあげてくださいね。

※セーラ・マリ・カミングス氏: (Sarah M.Cummings)
(株)桝一市村酒造場取締役。長野県小布施町でさまざまな企画・運営をする。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002」大賞受賞。

※ジェームズ・ラブロック氏: (James E. Lovelock)
1919年英国生まれ。生物物理学博士、医学博士。「ガイア仮説」の提唱者。

田中美絵さんの記事「仕事力」「あの人とこんな話」は www.asahi.com/job/ で読むことができます。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received April 26, 2006.

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