つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200607SM.

特集:大学説明会

平成18年度生物学類大学説明会を終えて

鞠子 茂(筑波大学 生命環境科学研究科)

はじめに

 今年も真夏の7月26・27日に生物学類大学説明会が開催され、昨年と同様に、午前中は教員による生物学類説明会、午後からは学生による生物学類説明会と施設見学会(研究ブース、模擬講義、研究施設見学コース)が行われました。前日の準備と合わせて3日間にも及ぶ説明会でしたが、教員、大学院生、学類TA、事務職員の方々のご協力によって、昨年より56名増の516名(26日:286名、27日;230名)もの見学者を迎え入れることができました。ご協力頂いた皆様に心からお礼申し上げます。

 少子化の進行に伴って、大学説明会のもつ役割と重要性は今後さらに増していくものと思われます。ですから、生物学類の説明会をさらに充実したものに変えていく必要があります。幸いにも、生物学類には説明会を発展させるための見事なフィードバックシステムがあります。それを可能にしているのは、説明会終了後に行う恒例の「反省会」です。今年も、良かった点、悪かった点について多くの意見が出され、活発な議論が行われました。その結果、いくつかの改善すべき課題が見えてきました。以下に、来年の生物学類大学説明会がさらに充実したものになることを期待して、今年度の説明会の概要と改善すべき点についてまとめることにしました。

今年度の大学説明会の基本方針

 大学説明会の企画・運営は大学説明会委員会によって行われている。7名の教員によって構成された委員会は4月に第1回目の会議を行って基本的な方針を決めました。まず、前大学説明会委員長の坂本和一先生が昨年の「つくば生物ジャーナル-大学説明会特集号」で述べておられるように、生物学類の説明会は会場、企画、日程、形式等についてはほぼ完成の域に達していることから、内容的には昨年の説明会を踏襲したものとすることが決定された。さらに、よりソフィスティケイテッドされた説明会を目指すことが重要な方向だとして、今年度は、「参加する高校生たちの目線で大学説明会を企画・運営する」という基本方針を採択した。

 これらの方針の決定を受けて、今年度は早めに学類のTAを募集することになった。それは、より高校生の目線に近い学生諸君に企画の段階から参画してもらって、その意見を取り入れていこうというねらいがあったためである。実際、学生から貴重な意見がいくつか出された。たとえば、昨年度に引き続いてTAを引き受けてくれた学生は、生物学類の説明会でわれわれが何を提供しようとしているのか、その点をもう少しシステマティックに伝える必要があという提案をした。確かに、他学類と比べて生物学類が提供する内容は盛りだくさんなので、高校生が消化不良を起こすことも危惧されていた。そこで、提供する内容の全体像と個々のつながりがイメージできるように、説明会の進行に工夫を加えることにした。また、提供する内容そのものを分かりやすくすることも重要な課題であったので、昨年まで参加する側であった学類新入生に緊急のアンケートを行い、改善すべき点を見いだそうとした。結果的に、アンケートの導入は予想以上の成果があった。たとえば、これまでの経験に基づいて改善すべきとした点に対して、アンケート結果は改善の根拠を与えることもあった。また、見学者が要求していることと、われわれが提供しようとしていることとの間には、予想できなかったずれのあることも明らかとなった。このようにアンケート結果は、その後の企画と運営を修正する際に大変参考になった。以上のような取り組みを行った結果、従来よりは高校生に分かりやすい説明会になったと考えている。

教員による生物学類説明会(10:00〜11:30、会場:2H101)

 教員による大学説明会は、朝10時から行う最初の説明会である。その前に行った会場までの見学者の誘導では、昨年の比較文化学類をまねてピストン輸送を採用した。そのおかげで、混乱もなく見学者の誘導を行うことができた。

 今年は、教員による説明会の内容に変更を加えたところがある。最初に説明会全体のメニューをパワーポイントで説明し、今日の説明会の流れと簡単な内容を理解してもらうようにした。その後、これまで通り学類長による挨拶(佐藤先生)と入学試験の説明(漆原先生)を行った。しかし、続く教育課程の説明(濱先生)では、最初に学類のビデオを流してからカリキュラム、マンチェスター留学制度、下田・菅平実験センターの紹介、卒業後の進路の説明を行った。昨年は昼休みの時間にビデオを流したが、むしろ教育課程の説明のところでビデオを見せれば、具体的なイメージを持ってその後の説明を聞くことができるだろうと考えた。このアイデアは、新入生へのアンケートと春の大学説明会でのアンケートの結果から生まれたものである。しかし、30分弱のビデオ上映を挿入したことで、昨年よりもその後の説明に時間的余裕がなくなった。そこで、昨年までは複数の教員が行っていた教育課程の説明を一人の教員が行うことにして、時間の節約を図った。

 「反省会」では、分かりやすい生物学類説明会であったという意見が多く出され、上記の変更点にポジティブな評価が与えられた。一方、最後の質問コーナーで一つの質問も出なかったことに対しては反省すべきではないかとの意見も出された。質問が出なかった理由については、「大学の先生の話だったので生徒が緊張していたためではないか」などの意見が出された。また、その対応策として、あらかじめ最初の質問を誰かにお願いしてもらうなどの意見も出された。しかし、そこでは結論が得られなかったので、来年は新入生からアンケートを通じて情報を集め、それをもとに検討すべきだと思われる。

学生による生物学類説明会(12:30〜13:35、会場:2H101)

 昼食後に行われた学生による生物学類説明会では、授業体験(染谷、奥田)、生活紹介(阿久津、高良)、マンチェスター留学体験(松本)、受験体験(宮地、阿久津)が紹介された。昨年と異なるところは、サークルの紹介がなくなったことである。これも、新入生へのアンケート結果に基づいた変更点である。アンケートの結果をまとめてみると、サークル活動が参考になったとする意見はほとんどなく、それに対して、授業体験と受験体験は役に立ったとする意見が多かった。こうした要求に応えるべく、授業と受験の体験談に時間を多く割り当てることにした。それぞれの学生が創意工夫して話をしてくれたので、高校生達は興味深く聞いていた。やはり、HPやパンフレットでは知り得ない生の情報は高校生にとって貴重であるように見受けられた。

 今年は事前に練習を行ったせいか、昨年見られたような割り当て時間をオーバーすることはほとんどなかった。また、学生の間で内容の相互チェックが行われ、洗練された体験談を提供することができた。以上のメリットを考えれば、来年も事前の練習は行った方がよいと思われる。

 1日目と2日目では、見学者の反応が全く異なった点があった。1日目には、まったく質問が出なかったのに、2日目は全く逆に熱心な質問が飛び交ったのである。何が違ったのか。実は、1日目の司会者は筆者が行い、2日目は学生が行ったのである。教員による説明会のところでも質問が出なかったと書いたが、そのときの司会も筆者が行った(それも2日間とも)。めげる気持ち抑えて、2日目は学生に司会をお願いすることにしたのだが、この目線を下げる実験は大成功に終わり、さらに複雑な気持ちになった。驚いたことに、「他の大学との連携はどうなっているのか」などと、午前中に教員が答えなければならないような質問まで飛び出す始末だった。今年度の「目線を下げる」という基本方針は、斯様に重要なことテーマであったのだと後で気づかされる結果となった。この教訓から、同様の努力を積極的に行うことは来年の課題の一つと言えよう。

施設見学会
(13:35〜16:00、研究展示・模擬講義会場:総合研究棟A、コース:遺伝子実験センター・TARAセンター・総合研究棟A)

 教員と学生の生物学類説明会終了後、高校生達は研究展示、模擬講義、施設見学コースに別れて見学を行った。ここで、一つ問題となったことがあった。1日目に施設見学会場へ移動する際、誘導を行わなかったために、研究展示や模擬講義の会場へ立ち寄らずバス停へ向かった学生が多く見られた。1日目の反省会でそのことが指摘され、2日目はちゃんと誘導を行った。その結果、前日よりは多くの見学者を呼び入れることができた。

 研究の概要をまとめたパンフレットは施設見学会に参加する高校生にとって重要な情報源である。また、帰宅してから見学した内容を振り返るときに役立つものである。それら二つの面をカバーできる内容のパンフレットを作ることは大変難しい。しかし、高校生の目線で分かりやすい説明会を行うために重要な課題であった。そこで、10名ほどの新入生に昨年のパンフレットを見てもらい、難易度を付けてもらった。その集計結果から見えてきたことは、一目見て内容が分かるようなキャッチコピーと難しくない説明文を含むものが好まれるということであった。分かりやすいキャッチコピーはよいとしても、分かりやすい説明文とはどういうものであるのか、そのことを言葉にするのは意外に難しい。それで、教員の方々にパンフレットの執筆を依頼する際に困ってしまった。結局、専門用語をできるだけ避け、平易な言葉を用いた説明文を書いて頂くようにお願いするしかなかった。このような努力にもかかわらず、何人かの高校生にパンフレットを見た感想を聞いてみたところ、やはり十分な理解はできなかったものが多かったようである。分かりやすいパンフレットの作成に向けて、大きな課題が残された感がする。

○研究展示

 研究展示は今年で3回目であるが、研究室ごとの努力によって年々アトラクティブな内容へと変化しているようである。高校生だけでなく付き添っている家族の方にも大変興味深かったとの意見を多数頂いた。また、ブースごとに見学者を引きつけるための工夫がなされていた。反省点としては、ブース設置のためのテーブルや機材に過不足が見られたことである。展示内容がある程度固定化しつつあるので、準備の時に公平な分配を考えた方が良いのかもしれない。

 研究展示は見学者だけでなく大学側にもメリットがあるように見受けられた。研究内容を一般の人に説明するには十分な理解が必要であることから、説明を行う院生にとって貴重なトレーニングの場を与えているようである。

 入学や学類に関する相談コーナーを設けたが、熱心な高校生は教員や学類TAと膝をつき合わせて話をしていた。また、昨年は余り利用されなかった休憩室も、テーブルを離れ小島のように設置した結果、昨年よりは多くの父兄が利用して頂くことができた。

 今回の説明会では、高校の指導要領から抜き出したいくつかの分野名を採用して、研究ブースの分類と部屋割りを行った。これがどれ程の効果があったかは不明であるが、個人的には見学場所を決める際に有効であったのではないかと思っている。

○模擬講義

 模擬講義は公開講義室において3人の教員(和田、沼田、戒能)によって行われた。、それぞれの教員は生物の分類と進化、生命現象と物質、応用生物の各分野から一人ずつ選ばせて頂いた。講義室を覗いてみると、活発な質疑が行われていたようで、大変好評であったと思う。しかし、昨年の「反省会」でも議論されたことであるが、聴講する高校生が減っていく現象は今年も見られたようである。呼び込み要員を配置するなどの工夫をしたつもりであったが、大きな効果はなかったことになる。模擬講義という性格も考慮しながら、もう一度検討すべき課題であろう。

○見学コース

 先端施設コース1(鎌田・小野、林・中田)、先端施設コース2(田中・谷本、中村)、総合研究棟コース(酒井・佐藤・岩井、橋本(義))の3コースが設けられ、昨年と同様の順路で見学ツアーが行われた。見学者は希望するコースに先着20名としていたが、先端施設コースは人気が集まり途中で紛れ込んで参加する高校生もいたらしく、予定人数を上回る事態が起きた。そのため、帰りの時間が大幅に遅れたりするなど、予期せぬ問題が生じた。「反省会」でも多くの時間を割いて議論したが、良案はなく、来年に残された最重要課題の一つとなった。

おわりに

 生物学類大学説明会は年々充実した内容へと変化してきました。見学者が10%以上も増加したことは、その成果の現れと見ることができます。これはすべての関係者の努力の賜物ではありますが、とくに、貴重な時間を割いて会議を重ね、説明会の企画・運営に携わった大学説明会委員会のメンバー、事務の方々、学類TAの皆さんが果たした功績は大いに評価されるべきだと思います。一方で、学生をリクルートするための努力がさらに要求され、大学説明会委員会が担う役割は増大していくものと思います。それは、春の大学説明会への参加を見れば明らかです。同時に、説明会に残された問題点を克服していくことも求められています。このような状況に対応できるように、今後は委員会そのものの構造改革も必要になってくるでしょう。たとえば、毎年1/3程度の委員の入れ替えを行って新しい血を導入し、これまでにない斬新なアイデアを取り入れていくことも一案だと思います。

 
施設見学会 南側案内所

Contributed by Shigeru Mariko, Received August 26, 2006.

©2006 筑波大学生物学類