つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2006) 5: TJB200608SE.

人生哲学。2

TJB学生編集部(筑波大学 生物学類)

 今回は、取材に同行していただいた生命環境科学研究科・生物科学専攻1年の楡井直美さんに取材の感想を書いていただきました。
 取材時には就職活動をされていた楡井さん。学類生である学生編集部員とは違った視点から田中さんのお話を聞いていらっしゃいました。就職という現実に直面している楡井さんの感想は、数年後に楡井さんと同じ立場になる私たちにとってとても貴重な意見になると思います。

 コミュニケーション能力。これは就職活動を通して、私が一番目にした単語だと思う。企業が学生に求めるもの、その答えとして、である。

 「あなたは普段新聞を読んでいるの?」
まるで面接で聞かれそうな問いだが、発したのは白岩先生だった。研究の話が一段落したときに急にこの発言が飛び出した(この話題転換のスピードについていければ、どんな面接にもひるまなかっただろう)。その応酬は割愛するが、私が田中美絵さんに会いに行かないかと白岩先生に誘っていただいたのはこのときだ。

 私が田中さんに会ってみたいと思った一番の理由は、田中さんがコミュニケーション能力に長けているだろうと思ったからである。インタビュー記事は相手から話を聞きだせなくては成り立たない。相手が話し上手・下手であるのに依存してはならないし、相手をその気にさせなくてはならない。田中さんの記事を読むと、実にしっかりとした流れと内容のある話が書かれていた。どうやったら初対面の人間からこれだけの話を引き出せるのだろう。私はそこに興味があった。

 「嫌な人でもすごく会いたかったんです光線を出しまくる!すごく効果があるんですよ。」
田中さんから感じるものを書き表すとしたら、この言葉がふさわしい。
「人って何かがでているのでしょうね。」
田中さんは、話しに合わせて表情豊かに、真剣な顔や笑顔へと変えていた。表情は変わっても、話している人から視線を逸らせようとはしない。話の合間のうなずきや的確な相槌は、相手の話をさらに加速させる。話している人の方へ身をのりだし、全身で話しを、その内容を吸収しようとしているかのようだった。全力で受け止めてくれる、理解してくれるという安心感があった。それは、田中さんが出している“何か”がそう感じさせているのだろう。

 もちろん、田中さんのコミュニケーション能力の秘訣はこれだけではない。用意周到な事前準備、話を聞き出すために田中さんが独自で考えたテクニックなど数多くの秘訣があった。
「取材術とか、取材の本は少ないんですよ。」
この言葉は、読者にインタビューの相手の姿をなんとかして伝えたいと考え、その方法を模索し体得したということを表している。

 私は、田中さんに会えたことに感謝している。ためになるお話をたくさん聞かせていただいたということについて。そして、コミュニケーション能力の別の側面、話を聞くという行為が能動的な行為であるという視点を与えてくれたことに対して。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received May xx, 2006. Revised version received October 11, 2006.

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