つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200703MN.

特集:卒業

卒業生のことば

野口 実穂(筑波大学 生物学類)

 新しい世界に進むためには、今いる場所に別れなければなりません。私たちはその地点にたどり着きました。大学生活を終え、次の段階に進む時が来ました。

 4年間を振り返って感じるのは、高校まででは考えられないほど色々な経験をしたということです。それは、社会に出て行く一つのステップを意味しているのかもしれません。本来は生物学を学ぶことが大学生活の中心であったはずですが、色々な場所での多くの体験を通して、生物学以外のたくさんのことを学んだ気がします。せっかく筑波大なのだからと思って聴いた他学の様々な授業、高校を卒業した時にはもうやらないだろうと思っていたのに結局やめられなかったバレーボール、コーチという立場での子どもたちとの交流や、怪我で経験した二度の入院生活、介護等体験や教育実習、友達と過ごした時間など、色々なことが自分の世界を広げてくれたように思います。大学時代の終わりを迎えて、まだまだやれることはあったと思うし、やりたくてもできなかったこともありますが、私は自分の4年間に満足できます。

 生物学類の授業では、最後列の端の机が私の指定席になっていたり、ノートの字は解読不能で意味不明だったり、場合によってはやる気のない学生だったかもしれません。それでも思い返してみれば、夏休み中まで飼育小屋に通ってヒヨコを育てたり、下田で想像もつかなかったような不思議な生物を見て騒いだり、思い出深い体験をしました。4年間で、それまで以上に「生き物」が好きになりました。そして生物学類には仲間がいて、素晴らしい先生方がいらっしゃって、いつの間にか自分の大切な場所になっていることに気付きました。そこから離れて、一人一人が別々の新しい場所に進んで行くことは、寂しくもあります。

 私は、一般的でありきたりな謝辞を卒業生代表として述べられるような模範的な生物学類生だったとは自分でも思えないし、他の人から見てもそうだと思うので、卒業を迎えて私が心から思っている以下の言葉を、生物学類に贈ります。

生物学類学位記授与式謝辞

 2003年4月、私たちが希望でいっぱいの新入生として筑波大学に入学した日から4年が経ち、今日卒業の日を迎えました。生物学類に入って初めのうちは多くの学生が驚くほど勉強熱心で、生物学に対する熱意にあふれ、概論の授業中に飛び交う高度な質問に私は戸惑い、この集団は何なんだと思ってしまいました。学年が上がるにつれ、その熱意を持ったまま研究にのめりこむ人や地道に勉強を続けた人もいれば、学類あるいは大学の外に生活の中心を持ち、生物学を学ぶために大学に入ったことなど忘れてしまうほど、他のことに熱中するようになっていった人もいると思います。

 大学生活は自由で、卒業単位を取りさえすれば、生物学以外の多くのことを経験し、学び、遊ぶ時間がたくさんありました。実際、私自身も生物学類以外の場所で多くの人と出会い、貴重な経験をしてきたように思います。それでも私はふと「生物学類生で良かったな」と思うことがあります。その理由は二つあります。

 一つは、4年間を通して助け合い、生物学類生として同じ過程をたどってきた約90人の仲間がいることです。一年生のときは、全員で概論や基礎生物学実験を受け、皆で助け合って試験やレポートを乗り切りました。学年が進み4年生になり研究室生活が始まって、多くの人とはめったに会わなくなっても、その分久し振りに集まったときには会話が尽きず、自然と新しいエネルギーを与え合うことのできる仲間となりました。そして最後に全員で卒研発表会を迎え、お互いの一年間の卒業研究の成果を讃えあうことができたことは、本当に幸せなことだと思います。

 そしてもう一つは、林学群長や佐藤学類長をはじめとして、生物学類を愛し、教育熱心で学生思いの先生方がたくさんいらっしゃることです。授業や実習などを通して、先生方は私たちに生物学の魅力を伝えて下さいましたが、それだけでなく、私たちがより充実した学生生活を送ることができるよう常に工夫を重ね、ときには人生相談に乗って下さり、根気良く私たちと向き合ってここまで導いて下さったことに、心から感謝致します。本当にありがとうございました。

 生物学類は、私たちがどこにいても何をしていても、最終的な居場所となって、大学生活の根本を支えてくれていたのだと思います。この4年間を生物学類という共通の場所で過ごした仲間はいつまでも大切に、またたくさんの人への感謝の気持ちをいつか社会に還元できるよう、新しい場所で前進していきます。私たち卒業生は、先生方、そして仲間たちのこれからの人生が素晴らしいものになるよう、また筑波大学生物学類がこれからも発展し、永遠に繁栄し続けることを祈りながら、それぞれの次のステップに進んで行こうと思います。

Communicated by Shinobu Satoh, Received March 30, 2007.

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