つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200703SS.

特集:卒業

愛と誇り

佐藤 忍(筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 皆さん卒業おめでとうございます。今日ここに、83名の皆さんに卒業の証である学位記をお渡しできたことを心から嬉しく思います。

 思い起こして下さい。4年前の入学式、担任との出会い、オリエンテーションのバレーボール大会、フレッシュマンセミナー、概論、基礎生物学実験のレポート、そして数々の専門科目の授業。ついには4年次での卒業研究で、自分で新たな物を創造する苦しみ、まとめあげる苦労を学んだはずです。皆さんはこのような筑波大学生物学類の世界に誇れるプログラムを立派に終了しました。生物学類を卒業したことを大いに誇って下さい。

 またもう一点、皆さんは貴重な青春時代をこの生物学類で過ごしました。そこでの出会いはまさに一期一会です。担任そして56名の教員、多彩な学問との出会いを忘れないで下さい。そして何よりも貴重な友人を大切にして下さい。大学での友人は一生の宝です。連絡を絶やさずこれからの新しい人生をともに乗り切って行って下さい。

 さてここに、皆さんへのはなむけとして3つの言葉を送りたいと思います。本学の前々学長でノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈先生が本年正月の日経新聞に、サイエンスには2面性(ロゴス的な面、パトス的な面)が有ると述べておられます。ロゴス的な面は客観的、論理的、理性的であり、パトス的な面は主観的、個性的、情感的で、科学研究には両者が必要であるが、突出した研究にはパトスが不可欠である、という内容です。このことは我々の日々の研究にも当てはまることです。情報を集め、解析し、論理を構築するロゴスに加え、ひらめき、アイデア、直感の源であるパトスが重要です。研究以外の仕事でもパトスをもって仕事にあたれば、人とは違うあなただけの価値が生まれて来るはずです。

 私はこれに、3番目の言葉を加えたいと思います。それは「愛」です。愛は男女の関係もそうですが、対象を思い続けること、ずっと大切にすることです。嫌になってしまう、投げ出したくなってしまうことがあるのが人間ですが、例えば皆さんの担任もきっとトンボや枯草菌をずっと大切に思いつづけてきて現在があるのです。研究に限らず粘りの中からすばらしい成果、あなたにしかできない仕事が生まれるのです。これら3つ全てを持つのは難しいかもしれません。そんな時にはぜひ「愛」を胸に秘めて仕事に研究に向かって行ってほしいと思います。

 最後になりますが、皆さんに求めたいのは、自分自身に誇りを持つことです。自分はこの筑波大学生物学類を卒業した、大した人間なのだ、何でもやれる、という自信です。皆さんは大変優れているのに、残念なことにこれを見失っている人が多いように見受けられます。そして、それぞれの高い目標を掲げてください。その目標に向かって、挑戦して行ってください。後輩たちがあこがれるような活躍をしてください。皆さんにはその資格と実力が十分に備わっているのです。

 私達、後に残る教員は、そんな83人にエールを送り続けます。卒業、おめでとうございます。


学類長式辞

Contributed by Shinobu Satoh, Received April 3, 2007.

©2007 筑波大学生物学類