つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2007) 6: TJB200704SS.

特集:入学

学生としての自覚と誇りを持とう!

佐藤 忍 (筑波大学 生命環境科学研究科、生物学類長)

 入学おめでとうございます。受験勉強から解放されて新しい大学生活に胸を躍らせていることと思います。皆さんがここ筑波大学生物学類で充実した大学生活を送れることを心から願っています。さて、大学とは何なのでしょうか。高校とはどう違うのでしょうか。まず大学とは何をする場なのか考えてみましょう。

 大学では、高校までの勉強と違って、学問をします。勉強では与えられたものを消化し、その知識をうまく使いこなすことを求められますが、学問は自分自身で真理を探究することを求められます。教室で受ける授業や講義は学問の入り口にすぎません。教員が言ったことも正しいとは限りません。皆さんはそれをきっかけにして自分で書物をひもとき、自分で考えるのです。つまり受け身ではなく自分で行動を起こすのが学問の態度です。

 また、大学生は社会にも目を向けなければなりません。最高学府において、生物学という学問に関わっている皆さんは、少なくとも生命科学や教育に関連する社会的な出来事にも目を配り、それに対する自分自身の考えを形成する必要があります。

 つまり、学問に限らず全てにおいて主体的にものを考える存在が大学生なのです。皆さんは今日から自分たちを「生徒」と呼ばず、「学生」と呼んでください。そして、大学生としての自覚と誇りを胸に、主体的な存在として充実した大学生活を送っていってください。

 しかし、時間は限られています。有意義な大学生活を送るためには各人なりの目標を立てることが重要です。学問を追及して研究者を目指す人、留学して国際人を目指す人、教職や学芸員などの資格取得を目指す人、課外活動で活躍したい人、などなど様々だと思います。今すぐは無理かもしれませんが、早目に自分の将来像を考え、目標を設定し、その実現のための準備と努力を開始してもらいたいと思います。

 さて、教育に加えてもう一つの大学の重要な使命は研究です。先端的な研究により得られた知見をもとに学問を進展させていくことが大学教員の仕事です。ですから大学での講義では、単なる知識やスキルの伝授ではなく、各教員の研究に関連する最先端の学問を学生に伝えることができるのです。生々しい研究の醍醐味を皆さんに伝えることこそ、大学教員の喜びです。研究室では教員と大学院生、そして皆さんの先輩である4年次の卒業研究生が世界を相手に日夜研究に没頭しています。皆さんが力強い仲間としてこの仕事に参加してくれることを願っています。

 最後に、将来のために実行してもらいたいことを以下に列挙します。これらを心にとめてこれからの充実した大学生活を送っていってください。

@ 幅広い生物学の分野に興味を持つ。筑波大学では、幅広い学問分野の授業を履修することができます。1年次では必修科目が多くて大変かもしれませんが、興味のある他分野の授業をぜひ履修して視野を広げてください。また、生物学の専門科目では、できるだけ幅広く様々な分野の授業をとってください。生物学類では60名近い教員が多様な授業を提供しています。生物学類の卒業生は幅広い生物学の諸分野をマスターしていることが期待されています。

A 自分の専門分野を見つける。幅広い生物学の分野を理解したうえで、自分の専門とする分野をできるだけ早く見つけてください。そして自分でそれを深めていってください。幅の広さと深さの両輪が備わってこそ、さらなる発展が可能となります。

B 語学力・表現力を磨く。現代生物学にとって英語力は必須のスキルです。しかし重要なのは英語だけではありません。それ以前に自分の考えを的確に日本語で相手に伝えるコミュニケーション能力が重要です。この能力は、何も机に向かって養われるものではありません。日々の友人との会話の中でも培われるものです。様々なことに関して友人と大いに論議を交わしてください。

C 教員免許(中学・高校)を取得する。皆さんの中には将来研究者になりたい、あるいは企業で働きたいと考えている人も多いと思います。そのような人たちにもぜひ教員免許を取得しておくことをお勧めします。生物学類で取得できる資格の中で、将来最も役に立つ可能性が高いのが教員免許です。また免許取得の過程で学ぶ内容も、どのような職種でも必要となるコミュニケーション能力を養うのに有効です。将来のキャリアパスの選択肢を広げる意味でもお勧めです。大学院に進学して研究に従事した経験はこれからの理科教員では当たり前に要求されるようになってくるはずです。なるべく多くの卒業生に筑波大学の前身である東京教育大学からの伝統を引き継いで、教育界で活躍して欲しいと願っています。

D 人間関係を大切にする。皆さんはここ生物学類に入学したことで多くの友人や先輩を得ることができました。また、たくさんの教員とも知り合いになりました。この貴重な出会いを活かせるかどうかはみなさん次第です。良好な人間関係なくしては相手を理解することも、自分に無いものを得ることもできません。人間関係の第一歩は挨拶からです。貴重な出会いを大切にしましょう。

E 自己管理をする。皆さんの多くは初めて一人暮らしを始めたことと思います。そうでなくても大学では、授業を選ぶのも出席するのも自分次第です。朝決まった時間に起床すること、朝食をきちんと採ることが基本です。生活から始まって全てがその個人に任されているのが大学です。自己管理から全てが始まることを肝に銘じてください。

 これからの生物学類における皆さんの4年間が実り多きものであることを心からお祈りしています。皆さんの活躍を期待しています。

Contributed by Shinobu Satoh, Received April 19, 2007.

©2007 筑波大学生物学類