ハプト藻画像データ

イソクリシス目 (ISOCHRYSIDALES)
プリムネシウム目 (PRYMNESIALES)
円石藻目 (COCCOSPHAERALES)-1
円石藻目 (COCCOSPHAERALES)-2
円石藻 (Pleurochrysisと近縁属)
パブロバ目 (PAVLOVALES)


ハプト藻の一般的性質

一般形態

ハプト藻は,黄色植物と同様にクロロフィルa・cをもつ光合成真核生物である。しかし細胞構造は黄色植物の仲間と大きく異なり,独自の分類群を構成している。もっとも普通にみられるハプト藻は,黄色の葉緑体をもつ単細胞遊泳性の生物で,2本鞭毛をもち,その間から直線状に伸びるハプトネマとよばれる1本の鞭毛よりやや細い付属物をもち,さらに細胞の表面が微細な鱗片に被われるというものである。2本の鞭毛はいずれも特別な修飾構造をもたず(パブロバ亜綱は例外,後述),黄色植物やストラメノパイルのように管状マスチゴネマをもつことはない。このような仲間はハプト藻の大部分を占め,プリムネシウム亜綱(Subclass Prymnesiophycidae)にまとめられる。プリムネシウム亜綱の一部は炭酸カルシウムを沈着した外被をもち,特に円石藻(coccolithophorids)とよばれる。

ハプト藻の模式図


細胞鱗片

ハプト藻のほとんどの種は細胞の表面に鱗片をもつ。この鱗片はゴルジ体で形成され,鞭毛の根もとから細胞外に放出され,細胞表面に配置される。細胞外被は,多くの場合有機質の鱗片である。円石藻(coccolithophorids)とよばれる一群は,炭酸カルシウムが沈着した特別な外被を形成する。これらはいずれも黄色植物の多く(黄金色藻のシヌラ藻類で最も顕著)が珪酸を主成分とした鱗片を形成することと対照的で,ハプト藻はこの点でも黄色植物と異なっている。

 鱗片に被われたChrysochromulinaの細胞


周縁ER(peripheral endoplasmic reticulum)

ハプト藻の細胞のもう一つの特徴は周縁ER(peripheral endoplasmic reticulum)の存在である。これは細胞膜の直下で細胞全体を包む小胞体でハプトネマを構成する小胞体にまでつながっている。


葉緑体

ハプト藻はかつて黄金色藻綱(Chrysophyceae)の一員と考えられていた。これは藻類の分類が葉緑体の色調に基づいて行われることが多かったからである。このことは現在でも多くの分類群の名前に色の名前がついていることからも分かる。ハプト藻の葉緑体と黄金色藻綱や黄色植物の典型的な葉緑体を比べると次のようになる。

黄色植物とハプト藻の葉緑体 

ともに葉緑体は葉緑体ERに包まれ,核膜と連絡している。しかし,ハプト藻では黄色植物のほとんどの仲間に普遍的に存在するガードルラメラが欠けている。光合成色素もともにクロロフィルa・cをもつ仲間であるが,ハプト藻は主要なキサントフィルとしてフコキサンチンの代わりに19'ヘキサノイルオキシフコキサンチンをもっている点で特徴づけられる。


ハプトネマ

ハプトネマはハプト藻を特徴づける最も特異な構造である。この小器官はハプト藻だけにみられるもの(つまり共有派生形質=symapomorphy)で,この構造の存在によって分類群としてのまとまりが強固なものとなっている。

ハプトネマの横断面

ハプトネマの役割

ハプトネマはさまざまな現象に関与しているらしい。ハプトネマの最も特徴的で,普遍的に見られる運動はコイリングである。これは,直線に伸長した状態から一瞬(5-10ミリ秒)のうちにコイル状に巻き縮める現象である。コイリングはハプトネマを前方に向けて遊泳している状態の細胞に生じ,コイリングが起こると同時に鞭毛の向きが逆転する。結果として細胞はハプトネマを巻き縮めて,反対の向きに遊泳することになる。この現象はハプトネマが水中のさまざまな種類の障害物(他の微生物や浮遊する微粒子)に接触したときに頻繁にみとめられる。たとえて言えば,ハプトネマはいわば進行方向を哨戒する障害物センサーとして働いている。

コイリングの誘起には外界からハプトネマへカルシウムイオンの流入が必要である。これは,カルシウムイオンを培地中から除くとコイリングが起こらないことや,カルシウムイオノフォア(カルシウムを通すチャンネルを膜に形成する物質)を加えると,障害物との接触などの刺激がなくともコイリングが誘起されることなどから明らかになっている。ハプトネマが障害物に接触すると,ハプトネマ膜上のチャンネルが開いてカルシウムイオンがハプトネマ内に流入する。そして,それが引き金となって鞭毛運動の方向を逆転させ,逃避反応を引き起こすことになるようである。ハプトネマには鞭毛の運動を司るダイニンなどのような構造は見つかっておらず,残念ながら,コイリングを起こすモータータンパクなどの存在については皆目分かっていない。

ハプトネマのコイリング

コイルしたハプトネマ(ハプトネマは固定してもコイルする)

ハプトネマの基物への付着

ハプトネマにしばしばみられるもう一つの現象は基物への付着である。ハプトネマをもつほとんどのハプト藻はハプトネマの先端または先端付近の部位で基物(顕微鏡観察中はスライドグラスなど)に付着する。長いハプトネマをもつ種では,細胞はハプトネマをちょうど錨とロープのように用いて水中に漂っているのが観察される。このような細胞は,しばしばハプトネマを基物に付着したままゆっくりと滑走する。ここでも運動のための力が必要であるが,これを司る機構については何一つわかっていない。




ハプトネマと食作用

ハプト藻のなかでハプトネマが最も発達しているのはクリソクロムリナ(Chrysochromulina)属である。この属の多くの種は,光合成とともに外界から微細な生物や有機物の顆粒を細胞内に取り込む,いわゆる食作用を行うことが知られている。このように独立栄養と捕食による従属栄養を同時に行うことを混合栄養(mixotrophy)という。クリソクロムリナ属のある種では,この食作用にハプトネマが深く関わっている。

ハプトネマによる粒子の捕獲・粒子塊のハプトネマ先端への移動・ハプトネマの屈曲による粒子塊の運搬・粒子塊の細胞への運搬
 


円石藻(coccolithophorids)

まだ書いていません。


パブロバ亜綱 (Subclass Pavlovophycidae)

まだ書いていません。


この種は極域から熱帯にいたる海洋で大規模な赤潮を形成することで知られる。海洋の植物プランクトンの中でもっとも最も重要な種の一つで,この種が形成する炭酸カルシウムの円石の量は莫大で地球の炭素循環に影響を与えるほどであるともいわれる。地球環境研究との関連でさかんに研究が行われている。

 Gephyrocapsa oceanica

Emiliania huxleyi
に近縁の種で,日本各地の港湾に産出する。最近(1995年5月)相模湾から東京湾にかけて大規模な赤潮を形成して話題をよんだ。