1B1430


ヤマトヒメミミズの有性生殖

茗原眞路子1、栃内新2

(農水省・蚕糸昆虫研究所1、北大大学院・理・生物科学2)


 ヤマトヒメミミズは、体の数十分の一の小断片からでも完全な個体を再生できるという著しい再生能力を持つため、再生研究の新しい実験材料として非常に有望である(茗原他、小針他、昨年度本大会;栃内他、昨年度動物学会;野呂他、今年度本大会)。このミミズには生殖器官が全く認められず、もっぱら砕片分離と呼ばれる無性生殖によって増殖すると考えられてきたが(Nakamura, 1993)、最近、特定の飼育条件下では有性生殖も行われることが発見されたので報告する。有性生殖が自在に誘導できるようになれば、再生と胚発生の比較や生殖細胞の分化機構の研究などが可能になる上、突然変異体が作製できるようになり、実験動物としてのヤマトヒメミミズの有用性が飛躍的に高まると思われる。

 有性生殖個体は、数週間飢餓状態においた後再び餌を与えて飼育した集団の中から発見された。全て雌雄同体で、第5体節に受精嚢、第7体節に精巣、第8体節に卵巣、第8〜9体節に環帯が認められた。受精卵は直径約200ミクロンで、一度に1〜4個(平均2個)が卵包に包まれて産み出された。胚発生は25℃で約7日で完了し、体長約1 mm(14〜15体節)の小型ミミズが卵包から孵化した。通常の飼育条件下では、卵から発生した個体も、産卵を終了した個体も砕片分離を行い無性生殖サイクルに入った。飢餓処理による有性生殖の誘導は、今のところまだ成功率のばらつきが大きいため、飼育培地の状態や個体密度など、栄養条件以外の要因について現在検討中である。