イネにおけるペクチン性糖鎖の改変

  現在までに行なわれている脱化石資源を目指したバイオマス由来のバイオエタノール生産に関する研究では、セルロース性バイオマスのセルラーゼによる酵素分解を行う微生物側の研究はなされてきているものの、セルロースの糖化効率を上げるための植物側の細胞壁を改変する技術開発はほとんどなされていない。一方、イネは連作が可能で我が国で唯一高い自給率を誇る主要作物であり、ゲノム研究なども含めたリソース面で世界をリードしている。人為的なセルロース分解が容易になるように細胞壁を改変したイネを作出することができれば、新しい日本独自のバイオエタノール生産技術の開発が可能になると考えられる。

  イネを含む単子葉植物は、双子葉植物とともに新生代に進化してきたものと言われているが、セルロース以外は、質・量ともに全く異なるマトリックス糖鎖からなる細胞壁ネットワークを有しており、またその構成および架橋構造は比較的単純なものとなっている。ゲノムリソースの整備されたイネは細胞壁架橋の研究に有利な研究材料であると考えられるが、イネを含めた単子葉植物の細胞壁架橋ネットワークと発生過程との関わりについては、ほとんど解明されていないのが現状である。本研究は、細胞壁架橋に関わるマトリックス糖鎖の合成関連遺伝子群、およびケイ素、ホウ素、カルシウム等の細胞壁架橋に関わる半金属の輸送等に関わる遺伝子群の発現を改変することにより、細胞壁架橋ネットワークを分子生物学的に制御し、細胞壁架橋レベルを調節したセルラーゼ透過性の高い細胞壁を有するイネを作出することを目的とする。現在までに同定されている細胞壁架橋に関わる細胞壁マトリックス糖鎖、エクステンシン、グリシンリッチプロテインをはじめとした細胞壁タンパク質、そして細胞壁糖鎖と強くリンクしているケイ素、ホウ素、カルシウム等の半金属に注目し、それらの合成および分解の2つのアプローチから細胞壁糖鎖ネットワークを制御し、セルロース性バイオエタノール生成のための前処理を軽減できる細胞壁を有するイネを作出することを期待している。

 

スタッフの研究テーマ
中村敦子

 研究員

 単子葉植物を用いた細胞壁マトリックス糖鎖の細胞壁ネットワーク構築機能の解明
本多秀行

 生命環境科学研究科

 生命共存科学専攻

 1年

 生殖過程における植物の細胞壁マトリックス糖鎖の機能解明
佐藤淳也
生命環境科学研究科 

生命共存科学専攻1年

 単子葉植物を用いた発生過程におけるペクチン主鎖の機能解明
住吉美奈子
生命環境科学研究科 

生命共存科学専攻1年

 細胞壁タンパク質の細胞壁ネットワーク構築機能の解明
山本 剛史
生命環境科学研究科 

生命共存科学専攻1年

イネにおけるケイ素-細胞壁マトリクス間相互作用の解明
四谷 紗和子
生物学類4年
単子葉植物におけるペクチン-ホウ素架橋関連遺伝子の機能解明
市川 愛
生物学類4年
単子葉植物の生殖過程における細胞壁マトリックス糖鎖の機能解明
武部 尚美
生物学類4年
単子葉植物におけるグリシンリッチタンパク質の機能解明
稲村 拓也

生物学類4年

単子葉植物におけるアラビノース合成メカニズムの解明

共同研究して頂いている石井先生(森林総研室チーム長・筑波大学連携大学院教授)

森林総研

石井忠先生

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