根と土壌の間のコミュニケーション

  植物の根は、土壌から無機栄養分、水分、酸素を吸収する一方、二酸化炭素や各種の有機物を分泌している。根の生長に伴って、根周辺の土壌は、無機栄養、有機物質、水分含量、pHなど様々な影響を受け、根圏を形成する。その根圏に対して、大きく影響を与えている因子の一つがムシゲルである。ムシゲルは、根の表面や先端部から分泌される不溶性の粘液物質であり、酸性多糖類、有機酸、アミノ酸、酵素などで構成されている。植物を土壌から引き抜いたとき、乾燥した土壌で育った植物であっても、なかなか払い落とせないことがある。これは、ムシゲルが根と土壌粒子、さらに土壌粒子同士を接着させ、根の周りをおおう土壌の鞘を形成することで、不規則な土壌粒子の表面が連絡し合い土壌溶液と根との接触がスムーズとなり、土壌の水や無機塩類を吸収する上で非常に重要なものであるといわれている。また、様々な土壌微生物の生活の場ともなっており、土壌と根だけでなく、微生物と根との間のコミュニケーションに重要であると考えられる。また、根が土壌中を伸びていくときに、土壌の粒子を押しのけて根が入り込める隙間を作るとき、土壌粒子と根との間の摩擦抵抗を和らげるのではないかとも考えら得ている。しかし、ムシゲルの働きについては、仮説段階のものが多く、状況証拠だけで決め手になる直接的な証拠がないものが多い。粘液中には、土壌粒子も植物細胞もあるいは微生物由来の細胞や粘液物質も全てが不均一に混じり合って存在するため、粘液物質そのものを用いて有効に研究を行うことが現在まで行うことが出来ていない。そこで、本研究室で行われている毛状根を用いた変異体作出系を用いることで、ムシゲル合成に異常が生じた変異体を作成し、その原因遺伝子を同定・解析することで、ムシゲルの機能を明らかとすることを目的としている。これらのことを通して、根と根圏土壌との間におけるコミュニケーションの果たす役割を明らかにしたいと考えている。