果実の登熟過程と種子形成における細胞壁糖鎖の機能

 種子植物の中でも被子植物は、胚珠が子房に包まれ花弁を持つ特徴的な花とともに、発達した果実を形成することで知られている。受粉後、花粉管が花柱の細胞間を伸長成長し、胚珠に達する。重複受精と呼ばれる現象を経ることで、胚珠は種子へと成長し、その成長の間に、子房は果実へと成長する。トマトのような果皮が登熟過程で軟化する果実においては、50%以上という大量のペクチンを含む肥厚した一次細胞壁を発達させる。トマト果実の軟化レベルは、細胞壁分解、細胞壁の膨潤、細胞接着性の低下の程度に依存している。トマト果実の軟化には、ペクチンメチルエステラーゼとポリガラクツロナーゼというペクチン主鎖に関わる分解酵素が働くことが知られている。しかし、トマトの登熟過程において、著しいペクチンの脱メチル化と低分子化が起こるのではあるが、このペクチン主鎖の構造変化は果実軟化の直接的な原因とはなっていないことが近年明らかとなってきた。実際、直接的なペクチン分解酵素であるポリガラクツロナーゼの活性を完全に抑制した形質転換トマトでは、ペクチンの低分子化が基本的に起こらないように出来たにもかかわらず、果実の軟化自体は抑えることはできなかった。現在までに、エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)やエクスパンシンなどの細胞壁改変に関わる酵素の活性が、果実の登熟とともに上昇していることが明らかとなってきた。しかしトマトの果実が、非常に複雑な構造をしており、様々な生理条件および発生段階によって影響を受けるにもかかわらず、細胞壁多糖の分析については、細胞壁分解についての研究はなされているものの、細胞壁糖鎖の分布および糖鎖の合成、架橋形成に関わる遺伝子群についての知見は、非常に乏しいのが現状である。以上のことから、果実登熟の研究には、ペクチンの主鎖構造のみならず、細胞壁架橋ネットワーク全体の特性についての調査が不可欠であると考えられる。これらのことを通して、果実の登熟過程とそれに伴う種子の発生過程において、細胞壁糖鎖ネットワークが果たす役割を明らかにしたいと考えている。

寺尾 梓

卒業生

 着果および果実登熟過程における細胞壁糖鎖機能に関する研究                  
兵頭洋美

生命環境科学研究科 

生命共存科学専攻3年(D1)

日本学術振興会特別研究員

 果実成熟過程における組織特異的なペクチン多糖の構築制御機構に関する研究                  
 和田加奈子

生命環境科学研究科

生命共存科学専攻1年

 トマト果実成熟過程における細胞壁ペクチン可溶化とアスコルビン酸合成
 瀧沢 彩水 生物学類4年  トマト果実成熟過程における細胞壁マトリックス多糖分解酵素の組織別活性解析