名前:東 克己(ひがし かつみ)

研究課題:ペプチド性植物増殖因子の生理学的解析

研究概要:
 動物においては、ペプチド性の増殖因子は非常に一般的であるが、植物においては
、ほとんど知られていない。1996年にアスパラガス葉肉細胞培養液より単離されたフ
ァイトスルフォカイン(PSK)は、世界で初めて植物より単離されたペプチド性の細
胞増殖因子である。PSKは、低細胞密度における細胞分裂促進作用を持つことが示さ
れてきているが、その細胞分裂活性化のメカニズムは明らかにされていない。そこで
、このPSKがどのような作用機作で植物の細胞分裂に影響を与えるかについて現在研
究を行っている。材料としては、ニンジンのnon-embryogenic cell(NC)と呼ばれる
、細胞増殖のみを行う細胞培養系を用い、PSKが細胞分裂に与える効果を、同調培養
系、非同調培養系を用いて観察している。これまでに、外から与えたPSKが、細胞周
期過程にあるNC細胞数を増加すること、植物ホルモンの一種であるオーキシンが細胞
周期の進行を早める働きを増幅することを実験的に示してきた。
 そこで現在は以下のような実験を行っている。PSKの細胞分裂に対する効果を分子
レベルで解析するため、細胞周期制御因子(遺伝子)の挙動がPSKによってどのよう
に変化するかを明らかにしていく。これらの遺伝子の発現や遺伝子産物(蛋白質)の
消長などが、PSKによってどのように変化するかを調べることで、細胞周期の中での
PSKの役割について、分子レベルでより詳細に解析する。またごく最近、イネのPSK遺
伝子(OsPSK)が単離されたことより、このOsPSKをプローブとしてニンジンのPSK遺
伝子を単離し、センス遺伝子による過剰発現、あるいは、アンチセンス遺伝子による
発現抑制を行い、これらの形質転換植物体の形質変化について解析を行う。これらの
解析を通じ、PSKの植物における存在意義や生理機能等について、生理学的・分子生
物学的な考察を行う。