ニンジン不定胚形成

 高等植物の細胞には動物などには見られない分化全能性という能力を有している。分化全能性とは、葉や茎や根など特性の明確な組織に分化した体細胞から、再び新しい個体が再生する現象(再分化)を指す。この分化全能性の最も直接的な証拠として、不定胚形成が知られている。不定胚とは、種子中の胚と同じく新しい植物体を形成する基となる組織をさし、種子胚とほぼ同様の特徴を持つ。種子胚が受精によって作り出されるが、不定胚は通常の体細胞から形成されると言う点が最大の違いである。
 不定胚形成は種子胚(受精胚)と同様の形態変化(球状胚、心臓型胚、魚雷型胚の順)を経て、正常な植物体にまで成長することから、種子胚のモデル系としても盛んに研究利用されている。種子胚は種皮や胚乳などの組織に包まれているため観察しにくい点が有るが、不定胚は胚だけを単独で観察でき、また大量に集めることが可能で非常に実験を行なう材料として適している。ニンジンは最初に不定胚誘導が確認された植物であり、不定胚に関する研究が最も蓄積されている。