ABAによる不定胚の乾燥耐性獲得

 乾燥耐性を持たないニンジン不定胚をABAで処理したところ、高い乾燥耐性が誘導できた。乾燥時の不定胚は水分を5%程度しか持っていない。このことから乾燥耐性は水分を保持することによっておこるのではなく、水分を失っても生存できる状態を作り出すことによっておこると考えられる。



ABAを処理した不定胚では何が起こっているのか?どのようなメカニズムで乾燥耐性が獲得されるのか?この疑問を解決するために、現在、次のような研究を行っている。

1)不定胚におけるABA誘導型遺伝子の単離
 ABAで処理したニンジン不定胚から、7種類のABA誘導性遺伝子が単離された。これらの内いくつかは、LEA(Late Embryogenesis Abundunt)タンパク質をコードしている。LEAタンパク質は親水性のタンパク質で、細胞を乾燥から守る働きがあると考えられている。

2)ABA誘導型遺伝子の発現制御システムの解析
 種子でのABAの情報伝達に関わる因子としてVP1/ABI3因子が知られている。ニンジンにおいても、ホモローグとしてC-ABI3を単離している。形質転換植物を用いた研究から、1)で示したABA誘導性遺伝子の発現がC-ABI3とABAによることが明らかとなった。



応用的には、この技術を人工種子の軽量化や保存に利用できるのではないか?と考えている。実際に、当研究室において、乾燥状態の不定胚をフリーザー中で3年以上保存させることに成功している。