1)K. Sakamoto, K. Shimomura, Y. Komeda, H. Kamada and S. Satoh A male-associated DNA sequence in a dioecious plant, Cannabis sativa L. Plant Cell Physiol. 36: 1549-1554 (1995)

雌雄異株植物・アサの雄に関連したDNAシークエンス
 
  有性生殖は、減数分裂により半数体の胞子(配偶体、配偶子)が形成され、それらが合体して再び2nの胞子体が形成される過程から成り、個体間でのゲノムの混合がその目的である。その際、性(雌雄性)が生ずるが、その表現は植物の進化に伴って変化を見せる。まず最も単純な性表現は緑藻やこけ類において見られ、性はn世代(配偶体)の個体レベルのみで存在する。次の段階が、車軸藻やワラビ(シダ)に見られるもので、無性の配偶体(n)上に雌または雄の配偶子の形成器官が、個体上の位置(?)情報を元に別々に分化し、雌または雄の配偶子が形成される。(n世代の器官レベルでの性決定) 次はクラマゴケ(シダ)や種子植物で見られる様に、性の決定は1つ前の世代である無性の胞子体(2n)上に雌または雄の胞子を形成する器官、つまり花器官が形成される段階で起こり、続いて起こる胞子、配偶体、配偶子の形成を通して性が表現されるようになる。(2n世代の器官レベルでの性決定) さらに進化が進んだアサ、メランドリウム、アスパラガスなどの雌雄異株植物での性は、胞子体の個体レベルで存在する。これらの植物の性は遺伝的に決定され、その多くは異型の性染色体を有している。この性染色体は苔の性染色体の様にn世代の性表現に関与することはなく、2nの胞子体において初めて機能する。このタイプの植物では、雌雄同株植物において位置(?)情報を元に一連の花器官形成遺伝子の発現をスタートさせる上位の遺伝子(性決定遺伝子)が、別々の染色体(X、Y)に座乗し分けたと考えられる。
 アサの性染色体の構成は、人間と同様にXY型であるが、Y染色体がX染色体の2倍近い大きさであることが報告されている。このY染色体上には、雄性を促す、もしくは雌性を抑制するような性決定遺伝子が存在すると考えられる。この性決定遺伝子はおそらく花器官形成の極めて初期に僅かな発現しか示さないために、その単離は発現解析からのアプローチでは困難であると考えられた。そこで我々は、アサの性染色体の構造と機能を解析することにより、植物の性決定機構を解明して行こうと考えた。
 そこでまず、雄株に特異的な、つまりY染色体のみに存在するDNA配列を知ることを目的に、ランダムな塩基配列を有する115種類のプライマーとアサの雄・雌株から得たDNAを用いた試験管内DNA増幅を行い、雌雄DNAの比較を行った結果、雄株に特異的なバンドが25本検出された。次に、それら増幅されたDNA断片をクローニングし、それらをプローブに用いて雌・雄DNAに対するゲノミックサザンブロッティングを行ったところ、雄株にのみ特徴的にハイブリダイズする8つのDNA断片が同定され、そのうち一つのDNA断片をMADC1(Male-associated DNA sequence in Cannabis sativa) と命名した。MADC1のシークエンスには、既知のDNAとの高い相同性や長いオープンリーディングフレームが存在しなかったが、アサの種全体の雄株に特徴的に保存されていることがわかった。現在、MADC1などをプローブに用いたFISH(fluorescence in situ hybridization)により性染色体のマッピングを行おうとしている。本研究はまだ始まったばかりであるが、性染色体の構造や機能、その系統的な発生のメカニズム等の解明に足場を与えるものであると我々は考えている。

2) K. Sakamoto, Y. Akiyama, K. Fukui, H. Kamada and S. Satoh Characterization; genome sizes and morphology of sex chromosomes in hemp (Cannabis sativa L.). Cytologia 63: 459-464 (1998)

3)阪本浩一、佐藤忍 高等植物の性決定と性発現。 蛋白質核酸酵素 43:1112ー1119 (1998)

4) K. Sakamoto, N. Ohmido, K. Fukui, H. Kamada and S. Satoh Site-specific accumulation of a LINE-like retrotransposon in a sex chromosome of the dioecious plant Cannabis sativa. Plant Mol. Biol.: in press (2000)



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