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学生による書評・イベント紹介

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動物に教えてもらう「生きるヒント」

LIFE<ライフ>人間が知らない生き方


 漫画家と生物オタク。本書は、異色のコラボで生まれた。
 内容もなかなかに斬新で、キリンやペンギン、カピバラ、ナマケモノ、ダンゴムシといった、20種類の動物の生態を扱っている。本書は漫画と文章で構成されており、動物たちの意外な本心や生き方が次々と明らかにされていく。
 ここまで書くと、単なる「動物の生態解説本」のように思われるかもしれないが、本書はそれにとどまらない。動物たちの生き様から、私たち人間の「生きるヒント」を導いている。
 例えば「ナマケモノの教え」。彼らはその名の通り大変な怠け者で、睡眠時間は1日最長20時間、トップスピードは秒速4.4 cm、食事は1日にたったの葉っぱ8g。天敵のワシに見つけられてしまった時は早々に諦め、せめて痛くされないように全身の力を抜くという。もしも動いて体温が上がり過ぎると死んでしまいそうになるため、長い爪で戦おうなどという選択肢はそもそもないのだそうだ。
 人間の私たちからしてみれば、彼らの生き方は不合理極まりない。だが、著者は「事実、彼らは種として立派に生き残っている」と指摘する。そして、「『燃えるように生きることだけが人生ではないぞ』 ナマケモノは、生き物として悟りの境地にいるのかもしれない」と示唆的に締めくくるのだ。
 中にはやや強引に思える「ヒント」もある。だが、漫画家・麻生羽呂氏によるユーモラスなイラストを見ていると「これもご愛嬌」と思えてしまう。これは、漫画という表現手法の摩訶不思議な側面である。
 家庭で約300匹の昆虫などを飼っているという生物オタク・篠原かをり氏が加える解説は、簡潔ながら情報量が多く、本書を程よく引き締めている。
 氷上から仲間を蹴り落として天敵の有無を確かめるペンギン、強いストレスを感じると自分の足を食べてしまうタコ、古い皮膚を落とすためにジャンプするイルカ——本書を通して動物たちの常識外れに見える生き方に触れるうちに、逆に自分が「人間としてこう生きるべき」という固定観念に囚われていたことに気づかされる。動物に対して謙虚な気持ちが芽生えるとともに、「色々な生き方があっていいんだ」と、肩の力がちょっと抜けるはずだ。漫画が多いので、気構えずにゆるく楽しめるのも本書の魅力だろう。
 つい忘れがちだが、人間も動物の一種。関連したことで思い出すのは、筑波大学の宿舎に住んでいた、生物学類1年生の頃のこと。レポートや試験に追われる日々の疲れを癒してくれたのは、宿舎にひょっこり出現するネコたちだった。彼らは人によく慣れていて、目が合えばじっと見つめてくるし、近づけば足元に体をすり寄せてくる。その愛らしさに、何度骨抜きにされたことか。だが、そうしたネコの仕草の意味が「こいつには勝てる」、「お前も自分の縄張りの一部だ」だったとは、驚嘆に値する。
 自然にすむ生き物は時に、想像を超えた姿によって、私達を魅了してくれる。それが、私にとって「生物学を学び続けている理由」とも言える。“生き物って面白い!”という純粋な気持ちを素朴に育ててくれる一冊に、一般読者のみならず、大学院で生物学の研究を志している私さえもが、励まされた。


 


[書籍] LIFE<ライフ>人間が知らない生き方
[著者] 麻生羽呂、篠原かをり
[出版社] 文響社
[価格] 1544円 
[刊行] 2016年11月
[評者] 添島香苗 筑波大学 
      生命環境科学研究科
      生物科学専攻
      博士前期過程1年 


【評者 添島香苗 】
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