つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 64-65.

特集:大学説明会

生物学類のカリキュラムについて

沼田 治 (筑波大学 生物科学系)

 私は7月30日に開かれた生物学類説明会で、生物学類カリキュラム委員長として生物学類のカリキュラムに関し て説明した。ここではその内容を忠実に再現したいと思う。この説明会に参加した諸君には再確認して頂きたいし、 参加しなかった高校生諸君には我が生物学類のカリキュラムを理解して頂きたいと考えるからである。

 1997年のクローン羊“ドリー”の誕生以来、最近の生物学の進歩は驚きを越え、奇蹟に近いといっても過言では 無い。その極め付けは2001年のヒトゲノム配列の解読である。生命の設計図は我々の手中にあり、近い将来その設 計図は完全に解読されるに違いない。まさに21世紀は生物学の時代なのである。10代後半の高校生諸君を前にして、 私は自分が50歳であることを痛切に感じた。もし私が20代に若返ったとしたら、私は躊躇無く生物学を専門とし て思う存分研究に励むであろう。若返ることはできないが、私が学んだことを若い諸君に伝えたいという気持ちが 高まり、熱い物が身体の中に込み上げて来たのである。

 生物学類説明会に参加した高校生諸君は

  • 生物が大好きで、大学での生きがいはこれしかない!
  • 生命の営みに興味がある。将来は大学院に進んで研究したい。
  • 生き物ってなんて美しいんだろう。生き物の神秘を解き明かしたい。
  • バイオテクノロジー関係の職業に将来つきたい。
  • 脳や免疫のことに興味があるので、生物学者として研究したい。
などなどいろいろな期待に胸をふくらましていたことであろう。生物学類のカリキュラムは基礎教育(1年次)、専 門教育(2, 3年次)、卒業研究(4年次)の3つに分れており、諸君の期待に十分答えうるものである。以下それぞれについて説明し、最後に生物学類のカリキュラムの特徴について紹介する。

1. 基礎教育(1年次)

 1年次では基礎教育に重点を置き、8科目の概論、基礎生物学実験I, II, III、クラスセミナーなどを履修する。概論は分類学概論、細胞学概論、遺伝学概論、発生学概論、生化学概論、生態学概論、動物生理学概論、植物生理 学概論の8科目であり、高校の生物の復習と専門科目への架け橋となるとても重要な科目である。1年次の1学期、 2学期に概論8科目を履修した後、3学期に各自の興味、能力、目的意識にしたがって専攻とコース(2.専門教 育を参照)を選択する。 

2. 専門教育(2, 3年次)

 専門教育は基礎専攻と応用専攻に分れて行う。応用専攻はさらに機能生物学コース、人間生物学コース、応用生物化学コースの3つに分れている。基礎専攻と各コースに関して簡単に説明する。

 生物学・基礎専攻は生き物の世界の法則性について理解を深め、総合的に考察する能力を養う専攻である。簡単にいえば生き物に対する尽きない興味を扱う専攻で、生物の多様性と共通性、生物の個体間や種間の相互作用、生物と環境の間の相互作用、生命の基本原理などを学ぶ。  生物学・応用専攻の機能生物学コース は生物の機能解析にたずさわる場合に必要な生物学の基本知識と基盤技術 の修得をめざすコースである。このコースでは遺伝子の機能、個体の調節機能や情報伝達機能などに集中して学習を進める。

 人間生物学コースは「人間」に的を絞り、生物学という広い立場から「人間」を制御する基本原理や法則を学ぶ コースである。したがって、生物学を十分に学ぶとともに、医学専門学群の授業で医学の基礎を学ぶことになる。し かし、医者になることはできない。

 応用生物化学コースは産業への応用を前提として、生命現象の化学的解析、制御および生物の生産機能に関する基礎知識を学び、生物の事象をいかに開発・利用するかを学ぶコースである。

 専門科目には以下に示すように各専攻で共通な生物学類共通科目と基礎専攻と各コースの専門科目がある。 

○生物学類共通科目(2, 3年次選択)  細胞学l、発生学I、植物生理学I、動物生理学I、分子遺伝学I、微生物学、有機化学、生命倫理と遺伝子、生物統計学、植物分類学野外実習、動物分類学野外実習

○生物学・基礎専攻の専門科目(2, 3年次選択)  植物系統分類学I, II;実験I, II、植物生態学I, II;実験、動物系統分類学I, II;実験I, II、動物生態学I, II;実験、水圏生態学、代謝生理化学I, II:実験、細胞学II;実験、発生学II;実験、植物生理学II;実験、動物生理学II;実験、分子遺伝学II;実験、進化遺伝学;実験、植物分類形態学臨海実習、動物分類形態学臨海実習、生態学臨海実習、動物発生学臨海実習、動物生理学臨海実習、生態学野外実習

○生物学・応用専攻の専門科目 (2, 3年次選択)

機能生物学コース
遺伝情報学I, II;実験、生体機能分子学I, II;実験、細胞システム学I, II、植物制御学、動物制御学、機能微生物学、情報生理学I, II;実験、生物  物理学I, II;実験
人間生物学コース
人体構造学入門;実習、人間生物学I、神経解剖学、免疫生物学、寄生生物学、細菌学、ウイルス学、放射線生物学、人類学、分子細胞発生学 実験
応用生物化学コース
生物化学I, II、生物活性化学、植物制御学、微生物遺伝生化学、酵素化学、生体機能分子学I、化学生態学、応用生物化学実験I, II, III  

3. 卒業研究(4年次必修)

 2, 3年次に所定の専門科目の単位を取得した学生は3年次の3学期に卒業研究の指導を受ける教官のもとで生 物学演習(必修)を行う。(人間生物学コースの学生は生物学類の教官のもとで生物学演習を行う。)生物学演習で は卒業研究のテーマに関する論文を検索し、卒業研究の意義と具体的な研究計画をレポートにまとめる。4年次に なると指導教官のマンツーマンの指導のもとで卒業研究の実験がスタートする。卒業研究の目的は問題解決能力の育成、研究技術と研究方法の習得、社会に巣立つ準備と研究者への第1歩を踏み出す準備をすることである。

4.生物学類のカリキュラムの特徴

(1) 国際性をめざす充実した英語教育
 生物学を勉強し、研究して行くためには英語を十分マスターすることが必須である。1年次では第1外国語とし て英語(4.5単位)が必修である。2年次の専門語学I(必修3単位)では比較的簡単な英語で書かれた生物学の専 門書を読む能力を身につける。3年次の専門語学II(必修3単位)では1人の教官に4〜8名の学生がつき生物学 の英語論文の内容を正確に理解する能力を養う。このような授業を チューター制と呼び、教官と学生がマンツーマンで学習するため、普段疎遠になりがちな教官と学生の交流の場にもなり、大きな成果を上げている。また、3年次は生物学類専属の外国人教官が担当する中級第1外国語(必修1.5単位)を履修する。4年次になると卒業研究の 指導教官のもとで専門に関する英語論文を読む専門語学III(必修3単位)を履修する。

(2) 多彩な実験と野外実習
 生物学の研究はまず生物を眺め観察することから全てが始まる。そのため生物学類では 実験重視のカリキュラムを組み、卒業のためには6科目以上の実験・実習の履修が必要である。実験は筑波大学構内の実験室で行われ野外実習は菅平高原実験センターと下田臨海実験センターで行われる。以下に実験と野外実習の一覧を示す。

○実験
植物系統分類学実験I, II、動物系統分類学実験I, II、  植物生態学実験、動物生態学実験、代謝生理化学実験、 細胞学実験、発生学実験、植物生理学実験、  動物生理学実験、分子遺伝学実験、進化遺伝学実験、 遺伝情報学実験、生体機能分子学実験、  情報生理学実験、生物物理学実験、人体構造学実習、 分子細胞発生学実験、応用生物科学実験I, II, III
○野外実習
菅平高原実験センター
 植物分類学野外実習、動物分類学野外実習、生態学野外実習
下田臨海実験センター
 植物分類形態学臨海実習、動物分類形態学臨海実習、生態学臨海実習、動物発生学臨海実習、動物生理学臨海実習、生物学臨海実習

(3) 担任制度
 生物学類に入学した学生は入学時に編成された20名ずつのクラスに属し、同じ担任のもとで4年間を過ごす。 4年一貫制の担任制度は担任による生活面、学習面でのきめ細かな指導の実現をめざすものである。

(4) 飛び級制
 3年次までに全ての必修科目を履修し、卒業に必要な規定単位数(124単位)を優秀な成績で取得した学生は 3年次に筑波大学の大学院、生命環境科学研究科の博士課程を受験できる。合格した学生は4年次の卒業研究を履修せずに、大学院博士課程の1年次として研究をスタートすることができる。飛び級制は優秀な学生が1年早く大学院 に進学し、その能力を存分に発揮できる制度である。生物学の進歩は若い研究者の柔軟な頭脳に負うところが大きいので、このような制度を導入した。

5.おわりに

 最初に述べたように21世紀は生物学の時代である。21世紀に活躍される若い諸君にとって生物学は魅力ある必須の学問となるに違いない。生き物の巧妙さと美しさに対する好奇心旺盛な諸君、また生物学の知識や考え方を武器としてあらゆる分野へ進んで行こうとする諸君、そして生物学に興味のある諸君、生物学類56名の教官は大きな期 待を持って諸君を待っている。

Contributed by Osamu Numata, Received August 15, 2002.

©2002 筑波大学生物学類