つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 100-101.

特集:留学

留学体験記 ―UCSD交換留学を通して 人それぞれの留学―

清水 優子 (メキシコ・ユカタン自治大学 留学中)

 この「つくば生物ジャーナル」に留学体験談を載せてくれ、と依頼が来た時は正直、困った・・・と思った。留学経 験者とはいっても私は、3歳から高校卒業まで海外で過ごし、高校はアメリカンスクールだったいわゆる帰国子女である。その後、筑波大学の生物学類に入学し、3年次の時にカリフォルニア大学サンディエゴ校(アメリカ)に 留学した。留学前に既に長い時間を海外で過ごしてきた私が経験した留学と、初めて海外へ行く人の留学とには大きな差があるから、私の体験談を読んでも役に立たないんじゃ・・・と思ったのだ。それでも、私なりに見た留学につ いて書いてみたいと思う。

 もともと留学に興味があったのだ。その理由は、英語を忘れたくなかったのと、色々なところに行ってみたかったからである。しかし当時、生物学類で交換留学の制度は無かった。それどころか全学募集の枠さえ少なく、私が行きたいと思うような所――つまり英語圏で自分の専攻である生物学が充実している所――はなかったので、サマー セッションにでも行こうかと考えていた。そこに、カリフォルニア大学への交換留学の募集を見つけたのである。2 年生の秋であった。もともと西海岸へ行きたかった私は有頂天になってすぐに応募を決めた。それに運良く受かっ たので、3年次の秋からカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)に行けることになった。

 日本とアメリカではもちろん、筑波大学とUCSDのあいだにも様々な、それこそ書き始めたら終わらないくらいの違いがあるのだが、私は特に大学での勉強について書きたいと思う。留学中の勉強は一言でいえば「大変だー・・・ 面白いけど。」高校がアメリカンスクールだった私はUCSDに行った時には語学の面ではそれほど苦労しなかった(も ちろん多少はあった)ので、英語が母国語でないせいではないと思うのだが、勉強は非常に時間をとられハードだった。筑波大学でいえば普通の講義に当たる授業の場合であるが、まずクラスに行く度にreadingの宿題を山ほど出 される(大体一回につき教科書10〜20ページ程)。それに加えて、論文を大体1.5週に一本くらいの割合で読まされる。更には一つの授業の、週当たりのコマ数が多い。一週間に50分×3コマもしくは80分×2コマの講義があ る。つまり、週に150〜160分ある講義についていかなくてはいけない。講義はそれだけだが、私が特に感心したのは、講義以外にTA(teaching assistant)がやっているsectionというクラスが週に5〜6コマあることである。 このsectionは必須ではなく、行きたい人だけが行けば良いというもので、大体の学生は週に1〜2section出て いた。講義の内容が理解できなくてもここで質問することができ、更には論文について説明を受けたり出来る。ここで運良く良いTAに巡り合えたら、このsectionの役に立つことは計り知れない。講義とsection併せて大体週に 250分くらいであろう。授業の内容の濃さといいsectionといい、勉強したい人を学校側がサポートしている姿勢が見られる(それにしては金曜日と土曜日の夜はアメリカ人いわく「パーティーのため」と図書館が夕方早く閉まるのだが)。筑波大学の生物学類の場合は、一つの授業は一週間に75分×1回とUCSDに比べたら短い代わり一学期間 に履修する授業の数が多い。UCSDの学生は平均的に一学期間に3〜5授業履修していたのが、生物学類では倍以上だろう。つまり、UCSDでは少数の授業を集中的にやるのに比べ、生物学類では多数の授業を幅広くやるといった感 じである。

 このように私は留学して授業のやり方などについて色々感じたのだが、何にしろ筑波大学とはまったく違う環境にいたわけであるから、授業以外にも非常に様々なことを感じた。これはおそらく、他の留学生達に関しても同様 だと思われる。そんなわけで、留学してどうだったか?というのは人それぞれ――につきる。私が行った2000年度には、ちょうど生物学類でもマンチェスター大学(イギリス)との交換留学が始まった年で、その年3人、翌年も 3人マンチェスター大学に一年間の留学をした。留学経験者に感想を聞いてみるとみんな言うことがばらばらで本当に面白い。「人生で最高の10ヶ月!もう、毎日ワーーーって感じで本当に楽しかった!絶対また行く!」という人 がいれば「やっぱ言葉が通じないし大変だよー、もう行きたくない」という人もいる。と思えば「良い経験だしま あまあだったけどやっぱり私は日本がいいかな…イギリスに行って日本の良さを見直したよ」という人もいる。「自 分から声をかけないと誰も面倒を見てくれなかった…」という人がいれば、「シャイな私をみんなが気にかけてくれて嬉しかった」という人もいる。「毎日英語を練習できるのがもう楽しくて楽しくて…」という人がいれば「毎日英語なのがもう苦痛で苦痛で…」という人も。「生活は最高に楽しかったけど、授業は解らなかったし実験もちょっと …」という人がいれば、「実験が良くできた!生活はまあまあかな」という人もいる。行ったところは同じなのに、みんな違うことを経験して違うことを考えている。やっぱり「自分次第」ということではないだろうか。

 私が思うに、留学は「ぜったい行きたい!」という気持ちが強い人ほど楽しめるのではないだろうか。逆に「自分が行きたいかはよくわかんないけど留学ってなんかかっこいいしハクもつくじゃん」という風に考えている人は、 行ってみてから予想以上に大変で辛かったり日本が懐かしくなって寂しくなったりしてしまうこともあるかと思う。 これを読んでいる人の中でこれから留学を考えている人がいたら、自分は本当に行きたいのか、またどうして行きたいのか今一度考えてみてほしい。本当に「行きたい!」と思っている人にはどんどん行ってもらいたい。きっと、 貴重な体験ができると思う。そのために交換留学の制度があるのだ。

Communicated by Jun-Ichi Hayashi, Received August 10, 2002.

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