つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 104-105.

特集:留学

僕が留学を考えるようになった理由

河島 友和 (カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) 大学院)

 僕が留学を考えるようになったのは高校時代にボーイスカウトの親善交流の一環としてオーストラリアに短期留学したことがきっかけです。当時は(今もそうだけど・・)英語なんかしゃべれなかったし、物事を深く考えるような時間もほとんどなかったけど、ただひとつ言えたことは「世界って狭いようでいて、本当はとても広いんだな」 ということです。

 「オーストラリアといえば?」と聞かれたら「コアラ・カンガルー」なんかはすぐに頭に浮かぶ単語だと思います。 しかし、実際にオーストラリアを訪れると日本とは違う植生に驚くはずです。もちろん植生だけではなく、気候、生活、人種、日本についてなどなど、知っているようで実は全く知らなかったことがたくさんあるんですね。インターネットや書物などで知った気になっていてもそれはほんの一部でしかなく、実際に体験してみないと見えてこないものが数多くある、つまり多くのことを見落としていたということに気づいたんです。

 大学に入ってもその考え方は変わりませんでした。やっぱりもう一度どこかへ行っていろいろな人と出会い話し合ってみたいという思いから、大学が設ける交換留学について調べたのが大学2年生のときです。  当時は全学交換留学の制度は充実しておらず、また生物学類のマンチェスターとの交換留学システムもなく、筑波大生として海外の大学へ留学することはできませんでしたが、オーストラリアに英語の勉強をしながら生物も勉 強できる学校があるということを聞いて、3年になったときに1年間休学してオーストラリアの首都キャンベラにあるCanberra Institute of Technologyという学校に入りました。

 最初にとった授業がEnglish for Academic Purposeというもので、英語でのプレゼンテーションの仕方やエッセイの書き方など、大学で必要な技術を学ばせてくれる大変有意義な授業でした。その後いくつかの生物に関する授業をとりました。

 ここで特筆したいのは、英語のクラスメイトがいろいろな国から来た年代もさまざまな人たちだったこと、大学院生として留学している人に出会ったことです。英語のクラスメイトとは夜な夜なパーティーを開き飲み明かした り、些細なことで喧嘩したりしました。年も違う、人種も違う。それだけでここまで考え方が違うものかということを叩き込まれたって感じですね。なるほどって思うことも確かにありましたが、それはちょっと違うんじゃないっ てこともたくさんありました。しかもお互い英語が上手なわけではないので正確に状況を説明できない・・・。本当に切なかったです。この経験が英語に対してもっと勉強しなくちゃって気持ちと、もっといろいろな人と出会って話をしてみたいという気持ちを高めてくれ ました。

 キャンベラにはオーストラリア国立大学があり、そこの日本人の大学院生と、あることで知り合いました。その人は珊瑚の生態から過去の地球の気候を解明する研究をしていたのですが、やはり気になったのが「なぜ留学しよ うと思ったか」です。その質問をしてみると、日本の修士時代にたまたま留学の話があってそのまま留学しただけでしたが、留学したことで自分の世界観が広がり、それが研究にも広がりを持たせてくれたことを教えてくれました。僕自身、研究に関してではないですが、オーストラリアに来たことで漠然と人生観に広がりを感じていたので、 やっぱり留学だなって決意したのを覚えています。

 日本に帰ってきて、また大学生活に戻ったのですが、慣れは怖いもので留学のことを考えなくなってしまった時期がありました。将来どうするかを4年生のときに考えだしましたが、留学したいけどこのままでも居心地がいい し、留学準備が相当大変なことからそのまま筑波大の大学院に進学してしまおうと考えたこともありました。

 ここで自分の進路を見定めて留学へ突き進ませてくれたのは、自分自身の努力ではなく、周りの声でした。進路のことを友達と話している場所にたまたま顔見知りの先生がきました。そして僕が留学もいいなって考えていると いうことを口にすると、「少しでもその気があるなら是非チャレンジしたほうがいいよ。僕も若ければまた留学したいな。」って言ったんですね。この一言が僕の人生を完全にひっくり返してくれました。幸運なことに海外で博士号 をとられた先生が近くにいたのでいろいろ相談にのっていただきました。とても恵まれていたと思います。

 人の気持ちなんていくらでも左右されます。昨日決意を新たにしても、明日はどうなっているか分かりません。僕 だって逃げていた時期もあります。重要なのはどれだけ自分の意思をそしてモチベーションを高いところで維持するかです。受験のための勉強も手続きも大変です(TOEFLとは別にGREというテストも受けなくてはなりません)。ですが自分の周りに同じような環境の人がいればお互いに高めあうことができます。僕の場合、東京の留学専門の予備校に通っていました。そこで英語レベルの似たような、アメリカの大学院をめざしてがんばっている人たちと知 り合うことができました。お金はかかるし通うのに時間もかかりましたが、自分のモチベーションを高める絶好の 場所であったことは間違いありません。

 さて、僕は今現在カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の大学院生です。なぜアメリカ、UCLAを 選んだかというと、1.母国語が英語である。2.日本より大学院レベルの教育システムがしっかりしている。3. 奨学制度が充実しており、学費・生活に困らない。4.自分の興味ある研究をしている先生がいる―ですね。まあ、他力本願といわれるような内容ですが、いかに自分にあった環境を求めるかは自分の能力です。日本にそのままいてもいろいろな経験はできるし、留学するほどのものでもないと考える人はたくさんいます。それももっとも です。でも、僕に関して言えば、それは自分の最良の環境ではなかったんですね。英語を使わなくてはいけない環境、教育をしっかり受けさせてくれる環境、お金に困らない環境、興味ある研究をできる環境、そして、いろいろな人たちに会え、自分を成長させることのできる環境が留学、そしてUCLAだったんです。それに、日本にいる自分と海外にいる自分とは同じ自分でも完全に立場が違ってきます。そうすると本当に違うものの見方をするよう になり、見えなかった新しい部分がたくさん見えてくるようになるんです。これは本当に楽しいですよ。

 僕は植物の発生に興味を持っているのですが、所属しているプログラムの関係上最低3つ以上の研究室を1年かけて回らないといけません。このシステムは、まだ研究室を決められない人たちのためにあると考えてもらって結構ですが、植物の発生を研究していくうえでも大変有利に働きます。僕の場合、動物の発生や遺伝子発現・調節機構をテーマにしている研究室を選択することで、短期的には自分の思った研究ができない一種の足踏み状態なのを、 長期的に見てとても有意義なものにしようと考えています。これも一種の最良の環境を作る能力のひとつかな? (ジョークです)

 もし皆さんの中で留学を考えていらっしゃる方、もしくは何も考えていないけど何かしなくちゃと考えていらっ しゃる方がいればいつでも連絡ください。相談ではありませんが一緒に考えることならできます!!!

tomokazu@ucla.edu(日本語可)

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received September 10, 2002.

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