つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 126.

シリーズ:筑波大学、生物学類のアドミッションセンター入試(AC入試)と今後のあり方 (その1)

自分を見つめて ―AC入試に合格して―

小林 久美子 (筑波大学 生物学類 2年)

 この原稿を書いているつい先日、今年度のAC入試が行われていた。私が、生物学類では初のAC入試を受けてから丸2年も経ったのかと思うと、月日の流れの速さに愕然としたものを感じる。当時の(現在もだが)私の学力では、到底一般入試で筑波大学に受かっていたとは思えず、今の私がここにあるのは、2年前に生物学類がAC入試を取り入れてくれたおかげである。AC入試で筑波大学に受かったことに対する私の思いを正直に書くと、『運が良かった』 の一言に尽きる。色々と吟味をして私を選んでくださった教官方には申し訳ないが、選ばれた方としては、懸賞に受かったのと同じような気分である。無作為で選ばれる懸賞では違いすぎると言うのならば、新聞やラジオに対する投書に近いと言ってもいいかもしれない。選ばれはしたが、私の何が良かったのかは知らされることがない。『自分の何が評価されたのだろう?』筑波大学に入学してから、この疑問は何度も私の頭をよぎった。私より個性的な同級生を目の当たりにした時。私より熱心に実験に取り組む友人を見た時。そして、相変わらず計画性がなく、レポートやテスト勉強を後回しにしてしまう自分がいた時。『自分はこれでよいのだろうか?』と何度となく考える。 これは、入試形態に関わらず、皆が感じる不安なのかもしれない。自分より上だと感じる人間に出会った時、彼らに対するコンプレックスを伴って、自分はこのままでいいのだろうかと、誰しもが思うのかもしれない。しかし、それに加えて私の場合、入学できた理由があやふやなために、私自身に対する不安を抱くと同時に、この大学に受かったこと自体を不安に感じる時がある。というか、いつまでたっても筑波大生であることに、自信は持てない。この先、私を選んでくれた教官方が、あの時私を選んだのは間違いだったと思う時がくるかもしれない。はたして、AC入学者が『間違いだった』と思われるほどに期待されているのかも疑問だし、もしもそう思われるようなことがあったとしても、それで私が筑波大学にいられなくなるわけではない。しかし、ACでの入学を否定されたら、筑波大生である私自身を否定されるような気がするのだ。それに加えて、今までの恵まれた環境が、更に私を不安にする。

 私が通っていた高校は、AC入試に対して考えてみれば、非常に有利な所であったと思う。単位制の総合高校ということもあって、様々な試みが行われており、その中には、‘課題研究’という自由研究を授業の一環として取り入れたものがあった。私は、課題研究では実験を行いたいと前々から考えていたので、担当の先生に相談し、大腸菌を使った実験を行わせてもらった。その実験には半年程取り組んだのだが、結局思うような結果は出せず、中途半端なままに終わってしまったことは未だに心残りである。しかし、それらをまとめたレポートを書類審査に提出して、AC入試に受かったのだから、実験の結果は失敗だったとはいえ、それらが結果的にもたらしてくれた成果は、私にとって非常に大きなものとなった。書類審査には、他にも某新聞社が募集した「21世紀への提言」というテーマで大賞を取った作文も提出したが、この作文も、先ほど述べた課題研究の副産物のようなものである。こう考えると、私のこの合格につながる幸運は、さかのぼれば、あの高校に合格できたことの一点に収まるのではないかと思 えてしかたがない。そうすると、私自身ではなく、私自身のいた環境が良かっただけなのではないかという思いが湧き上がってくるのだ。しかしその一方で、後から何と言われようと『受かった者勝ちだ』という気持ちもある。たぶん、そちらの気持ちの方が強いから、私は相変わらずマイペースに日々を送っているのだろう。

 結局、私は私でしかないのだ。無理をしすぎて自分のペースを崩すよりは、マイペースに一歩一歩進んでいく方がよいと思うのが私なのである。一歩一歩進むべきところを怠けて立ち止まり、後で苦しむことになるのは自業自得であるし、改めなければならない。しかし、何度後悔しても、どれほど嫌なところがあっても、それが私なので ある。受験勉強を十分にしてこなかったせいで、『周りの人々よりも、私は勉強ができないのだ』と、コンプレックスを感じることもあるが、授業が理解できないわけではない。しかし、ACを受けようと考えている後輩には、やはり勉強もした方がいいと言いたい。私は2年生から応用生物化学コースに進み、授業も化学寄りのものが多かったのだが、そのくせ高校化学の知識が貧弱で、とても閉口した。

 面白い、面白くないは別として、とりあえず今は、色々な講義・実験をとり、友人関係を深め、自分を広げていく時期なのだと思う。その中で私は、特にAC入学ということにはこだわらずに、私なりに何かを得られる大学生活を送れればよいのではないかと思っている。

Communicated by Yuzuru Oguma, Received November 15, 2002, Revised version received December 6, 2002.

©2002 筑波大学生物学類