つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: 336-337.

マンチェスター大学とその学生

季村 奈緒子 (生物学類3年 マンチェスター大学留学中)

 皮肉にも在学生で知っている人は少なく、マンチェスター大学の正式名称はモThe Victorian University of Manchesterモであり、UMan (The University of Manchester)、UMIST (the University of Manchester Institute of Science and Technology)、MMU(俗称 ManMet;Manchester Metropolitan University)、School of Music and Drama at the University of Manchester、とUniversity of Salfordの5つの大学から構成されている。筑波大学と図書館情報大学が行ったように、来年にはUManとUMISTが合併し、カリキュラムを共有することが決まっている。この5つの大学はそれぞれの特色を持っており、レベルも区々であるが、不思議に一体感を持っていたり、持っていなかったりするのも特徴である。

 我が生物学類の交換留学先というのは、UManのThe School of Biological Sciences (SBS)である。これは、The School of Medicineと同じ建物を利用している点から推察できるように、医学部との繋がりがかなり強く、英国トップクラスの生物学部として名が知られている。細かく26個の専攻に区分されており、学生のニーズに応えるように、学部レベルからかなり専門的に学ぶ専攻から、広く生物学の全般を捉える専攻まで、また、外国語の習得を交えた、通常3年間のコースに留学のための一年間を追加した4年プログラムの専攻などもある。一年生は、実習(practical)と併設されているいわゆる概論の授業が主となっていて、あとはtutorialといったフレッシュマンセミナーに似て、少人数でプレゼンやエッセイの書き方など、科学者として必要とされる技術・知識を実践的に学ぶ授業からなる。2年次では自分の専攻に沿ったより専門的な授業になり、3年生は卒論のための卒研に専念することになっているようである。講義は一こま50分程度の、9時から5時までの時間割りである。パワーポイントを利用した講義が多いため、それぞれの講義のウェブページがアクセスできる生物学部専用のイントラネットも設備されている。これは利用の仕方によってはなかなか便利であり、事前にスライドをプリントアウトしておけば講義中に必死になってノートをとる必要がなくなる。しかし、忙しい先生は更新の頻度が遅かったりするので、あまり有効的でない講義もある。全体的に見て、ここの学生は真面目で、その一例として、寝心地の悪い枕になりがちなThe Cellを一年生の夏に読破したという人にも出会ってしまった。

 イギリスの教育制度では16歳で義務教育を終え、その後、就職の道を選択しない学生は18歳まで、専門的な教育を受けるカレッジに行くか、Sixth Form Collegeと言って、大学の入学資格となるA levelsの試験に備える勉強をするカレッジに行くのが主流である。ここで日本やアメリカの教育進路と大きく異なるのがgap yearと呼ばれる、海外でのボランティアや、仕事に専念するために名の通り、ギャップをとる一年間の活動である。義務ではないが、自分の進路をより明確なものにするため、お金を貯めるため、人間としての成長を果たすため等といった様々な理由でこのgap yearを利用する学生が多い。外国で経験した色々な話をお互い話し合って知見を広げるとても良い機会になっているように個人的に思う。

 マンチェスターの学生は勉強ばかりしている印象を与えてしまってはいけないので、ここの学生は要領がいいことを付け加えておきたい。中心となるCity Centreから徒歩30分足らずといった大学の立地条件も手伝って、マンチェスターは誘惑の多い街であるとでも言っておこう。イギリス一の安くて賑やかなパブ・クラブ、二つのサッカークラブチーム、いくつもの無料美術館・博物館、数々のショッピングセンターを誇るのがマンチェスターである。ロンドンほど大きくて忙しくなく、物価も他と比べて安いことから、マンチェスターは最高の学生街として知られている。大学はイギリス一のstudent union(学生組合)を持ち、様々なサークルやソサエティの地域と密着したイベントも連日行われている。マンチェスターは学生としての立場をフルに活かし、いつの間にか活かされている環境を提供してくれる。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, November 23, 2003

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