つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312TS.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

斎藤 建彦 筑波大学生物科学系教授

(元下田臨海実験センター長、元生命環境科学研究科長、神経生物学)

 私は筑波大学に来てからは下田臨海実験センターとは縁のないイモリという動物を用いて、網膜神経組織の再生機構の研究をしています。したがってあまり頻繁に実験所を訪れる機会が無かったのですが、学生時代によく利用したこともあり、臨海実験センターには人並み以上の愛着を持ち続けておりました。

 ところが、最近になって旧友のロバート・バーロー博士というアメリカ人との共同研究を下田実験センターで行う機会があり、それ以来、センターを頻繁に利用させてもらっています。

 バーロー博士はカブトガニの神経行動学で世界的に有名な研究者です。彼とは私が1971年にアメリカへ留学した時にお会いして以来の友人です。夏になると、彼はいつもボストン郊外にあるウッズホール臨海生物学実験所(左下の写真)でカブトガニの研究をしています。その実験所からはノーベル賞学者が出ており、民営ですが世界的に有名な実験所です。バーロー先生から是非日本のカブトガニを研究してみたいとの要請を受け、1996年に笠岡からカブトガニを取り寄せ下田臨海実験センターで共同研究を行いました。その時、彼は実験所の施設、環境とも素晴らしいと絶賛してくれました。その翌年、共同研究の続きを、今度はウッズホールの臨海実験所でやることになり、日本のカブトガニをアメリカに送り、共同研究を完成させることが出来ました。

 2002年には、私の方から彼に大学院対象のカブトガニの視覚生理学の実習を下田臨海実験センターでやってもらえないだろうかという無理なお願いをしたところ、快諾していただき、2002年の3月にアメリカから大量のカブトガニを臨海実験所へ送っていただいて、大学院の公開臨海実習を成功裡に終わることが出来ました。その時も彼は下田臨海実験センターが国内外からの研究者や学部学生、大学院生の教育実習を広く受け入れて、自由度の高い教育と研究が行われていることに感心していました。

 さて、個人的な話になってしまいましたが、最後に、これからの臨海実験センターの役割を考えるとき、狭い意味での高度の教育や研究に終始するだけでなく、海洋環境の保全や生物の多様性の維持の重要性を、地元の人達との交流を通して訴えて行く前線基地としても重要になってくるのではないかと思っています。今後の下田臨海実験センターの多様な機能とその発展に期待しています。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類