つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: TJB200307MA.

特集:大学説明会

下田臨海実験センターについて

青木 優和 (筑波大学 生物科学系 下田臨海実験センター)

 昭和8年に東京文理科大学附属臨海実験所として発足し、今年でちょうど70周年を迎えた当センターは、下田を拠点とした研究により優れた成果を得た研究者や臨海実習などの教育経験を持つ多数の研究者を輩出してきた。現在も、研究と教育の両面において活発な活動を続けている。このセンターについて、Q&A 形式で紹介したい。

Q:どこにある?
A:伊豆半島南端より少し東寄り、静岡県下田市に位置し、下田港に隣接する大浦湾内の小湾である鍋田湾に面している。自然が豊かなうえに、市街や鉄道駅からも近く、道路網も発達していて、交通至便である。太平洋岸中部域にあるため、南北の生物相の混在域にあり、沿岸の生物多様性も非常に高い。

鍋田湾内から見た下田臨海実験センター:中央の白い3階建ての建物が第1研究棟、左手の木陰に見える白い2階建てが第2研究棟

Q:施設は?
A:主要な建物は、2つの研究棟・2つの宿泊棟・工作作業棟・飼育室・潜水作業のための設備(潜水器具庫と潜水タンク充填施設)である。また、調査用船舶には、30人乗り(18トン)の研究調査船「つくば」と7人乗り(0.5トン)の「あかね」と小型ボート数艇がある。研究棟には、走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を含む観察機器類や各種分析機器類が設備されている。研究用海水の汲み上げポンプは24時間稼働していて、研究棟内でいつでも海水を使うことができる。1実習では最大40人程度を収容できる宿泊施設を備えている。受け入れている。また、食堂では朝・昼・夕の3食を提供している。

研究調査船「つくば」:鍋田湾内アマモ場で底引き網の実習中

Q:研究活動は?
A:専任教官を中心とした研究と本学および他研究機関のセンター外からの利用者による研究がある。
 専任教官の各研究室で行われている研究内容は以下の通りである。
 発生学研究室:海産無脊椎動物の生体防御に関する研究、イタボヤ類の生殖様式の比較研究を行っている。センター前の湾内に設置された生け簀に研究用のイタボヤ類が維持されている。 動物生理学研究室:海産節足動物を用い、環境の変動に対する適応機序の生理学的研究をしている。例えば、中枢神経系や心臓に存在する冷応答細胞の生理機能に関する研究、カブトガニの中枢内の光受容ニューロンの生理学的研究、心臓・循環系の機能調節に関する研究などを行っている。 生態学研究室:海洋における動物と植物の相互関係についての研究、フクロエビ類の生活史および繁殖生態についての研究を行っている。潜水による野外調査や野外実験、室内飼育による実験解析を主な研究方法とする。
 一方、本学生物科学系の他教官や他大学の教官により最近行われた研究には、ホヤ発光細胞の発光機構の研究、イシマキガイの生息状況に関する調査研究、無公害防汚染塗料の浸漬試験、放散虫の調査研究、下田沖の海底生物相のドレッジ調査などがある。

Q:教育活動は?
A:多岐にわたる臨海実習が実施されている。それらは、植物分類形態学臨海・動物分類形態学臨海・動物発生学臨海・動物生理学臨海・生態学臨海・生物学臨海・学部対象公開臨海・体育集中授業の8つである。

臨海実習における磯での野外調査風景

 この他に、本学の大学院対象公開臨海、高校生対象公開講座を実施し、また、他大学の6-7件の臨海実習受け入れも行っている。さらに、一般への教育普及活動も盛んで、「自然観察教室」・「電脳下田黒船学校」・「海藻おしば教室」などの講座が周年開催されている。

高校生公開講座での「つくば」乗船風景

2003年高校生公開講座参加者

Q:年間利用者数は?
A:延べ約6,000人。

Q:常駐する教官や学生は?
A:学生は卒業研究生と大学院生が併せて10名程度常駐して、研究に励んでいる。専任教官は3名が常駐し、臨海実習の指導や常駐学生の教育にあたっている。

Q:研究・教育をサポートするスタッフは?
A:研究調査船の操船や管理・施設の管理・研究用具の開発を行う3名の技術スタッフ、事務全般をこなす2名の事務スタッフ、賄いや生活の管理を行う1-3名の賄いスタッフによる。

Q:共同研究は?
A:本学他研究室および他大学の研究室との科研費共同研究および応用分野における企業との共同研究が行われている。また、環境省の藻場調査などの委託研究も行っている。

研究調査船「あかね」による調査風景

Q:下田センターについて、詳しく知るには?
A:下田センターの研究教育活動と沿岸観測データをまとめたものを「筑波大学下田臨海実験センター年次報告」として毎年発刊している。また、センターを利用して行われた研究に関する論文は "Contributions from the Shimoda Marine Research Center, University of Tsukuba" として整理し、論文題目をまとめて不定期に刊行し、国内外の関係方面に発送している。センターおよびセンターの各研究室での活動の現況については、センターのホームページで知ることができる( http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp )。

Q:下田センターのセールスポイントは?
A:多様な生物を育む豊かな自然を目前にした絶好のフィールド環境に加え、研究機器や設備が調い、研究調査船や潜水設備もある。加えて、そこでの研究を十分に進めてゆくに足る強力なサポートスタッフがいる。海のフィールドでの研究や多様な海洋生物を用いた研究を行ってゆくのに、得難い環境である。

Contributed by Masakazu Aoki, Received August 12, 2003, Revised version received August 27, 2003.

©2003 筑波大学生物学類