つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: TJB200307RM.

特集:大学説明会

菅平高原実験センター

町田 龍一郎 (筑波大学 生物科学系 菅平高原実験センター)

 大学説明会で菅平高原実験センターの紹介を行いました。下田臨海実験センターとともに紹介の時間が特別に設けられたのは去年に引き続いて二回目です。菅平高原実験センターについてどのくらい的確に語れたかは心配ですが、大学説明会に来られた皆さんが、筑波大学に入ったら菅平の実験センターなどにもいって勉強したい!、と思っていただけたのなら、たいへん嬉しいのですが。ここでは、その説明会の時に語ったことを記します。これはとりもなおさず菅平高原実験センターの紹介です。そのようなつもりでお読み下さい。

 菅平高原実験センターは、まもなく創設4分の3世紀になろうとする、生物系山岳実験所です。このような山岳実験所は、国内に東北大学・九州大学・信州大学などにもありますが、規模・設備・質において国内随一のものであり、国際的にも屈指の教育・研究施設です(図1)。生物科学・地球科学・農学など、自然誌に関わる教育・研究を推進する目的で発展してきました。

図1 実験・研究棟(奥)と宿泊棟(手前)

 本州のほぼ中央、長野県小県郡真田町の上信越国立公園の一角、標高 1,300 m の地に 35 ha のセンターの構内が広がります(図2)。標高差 100 m の谷に広がる渓谷林、さまざまな遷移段階にある植生、実験林、そこには多様な野生動物も生息しています。夏季は冷涼な避暑地であるだけに、冬季は -30 ℃ 近くにもなる内陸性気候で、本州中部山岳地帯における自然誌に関わる教育・研究には理想的な立地・環境です。

図2 実験センター構内全景

 3名の教官、5名の事務官・技官からなる態勢で、植物学・微生物学・動物学関連の3研究室があります。センターでの研究は「生物多様性」や「環境」に関わるもので、国内外で高い評価を得ています。植物群落や生態系に関する研究、微生物の生態・分類学的研究、昆虫類・節足動物の比較発生・形態学的研究が行われています。また地球環境問題に関連する教育にも力を入れています。常時、10名以上の学類・大学院生が宿泊棟に寄宿しながら学習・研究を行っており、筑波大学だけでなく他大学・機関による色々な実習(図3・4)、セミナーなども開かれます。また、高校生対象の公開講座も毎年行われ(図5)、受講生のなかには、一般入試だけでなくACや推薦で筑波大学生物学類へ入学する者が少なくありません。

図3 夏期に開設される野外実習の一コマ(動物分類学野外実習)

図4 冬期に行われている野外活動の一コマ(雪上・雪中の動植物の観察)

図5 高校生を対象とした公開講座の一コマ

 このような教育・研究活動を支えるべく、研究設備、実習設備、支援設備も充実しています。DNA配列自動解析装置、光合成測定システム、ガスクロマトグラフィーシステム、光顕内蔵透過型電子顕微鏡、光顕内蔵走査型電子顕微鏡、研究用万能顕微鏡などの研究設備、また、30〜50 名の実習に対応できる実習用の顕微鏡、双眼鏡、気象測定装置など。採集や構内の整備のための四輪駆動車やトラクターなどの支援設備などもあります。また、センターの気象データはセンター発足以来記録されており、現在は多種の項目にわたって自動的に記録するシステムが完成しています。

 このように菅平高原実験センターは、生物系の山岳実験所として、設備・規模・質のすべてにおいて、国内随一、国際的にも屈指の施設として誇れるものです。しかし私たちが本当に誇りたいのは、近年の生物学が還元論やテクノロジーの推進を重視する中で、生物をあるがままの姿、システムとしてみていくという研究のスタンスを堅持しながら、国際的な研究を展開しているということ、そして、センターに学習・研究でおとずれる学生諸君が生物の素晴らしさに目を輝かし、生物学の面白さを体得されて帰られることです。高校生の皆さん、筑波大学生物学類に入学されたら、ぜひとも菅平高原実験センターにいらっしゃい。私たちと一緒に野外に出て、生物のありのままの姿を観察しましょう。生物学を選んで、学んで良かったと思えます!

Contributed by Ryuichiro Machida, Received August 25, 2003.

©2003 筑波大学生物学類