つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: TJB200307SS.

特集:大学説明会

教育課程、卒業後の進路の説明

佐藤 忍 (筑波大学 生物科学系)

 生物学類カリキュラムの特徴および卒業後の進路に関して、OHPを用いながら説明を行った。以下にその要約を述べる。

A)生物学類4年間の教育目標

 生物学類では、学類生活の4年間で、学生諸君に以下に示す学年に応じた知識・能力を身につけてもらうことを目標としている。

1年次:生物学の基礎を身につける・生物学のおもしろさを知る

 必修科目として概論8科目 (細胞学、遺伝学、発生学、生化学、分類学、生態学、動物生理学、植物生理学)を課している。これらの科目はすべて高校の生物学の教科書の目次に相当する分野で、2年次以降の専門科目を学んでいく上で基礎となる重要なものである。高校時代に物理・化学を選択し、生物学を十分には学んでこなかった学生は、この概論8科目を一年かけて苦労しながらもマスターすることによって、2年次以降の学習に十分対応できる実力を身につけることが可能である。

 一方、やはり必修科目として金曜日午後いっぱい年間を通して行われる基礎生物学実験氤。も、一年次生にとって欠かすことができない科目である。概論8科目に対応した内容の基礎的な実験・実習を、主に若手教官が中心となって指導する。高校時代には時間がなくて触りたくても触れなかった生き物に十分に触れ、単なる紙の上の生物学から実践する生物学を味わう、またとない機会である。この実験・実習を通して、生物学の基礎を固めるとともに、その面白さ楽しさを再発見してもらいたい。

2・3年次:生物学を深く理解する・専門性を身につける

 3年次になると、各自の興味、目的意識にしたがって以下の専攻(基礎専攻、応用専攻)とコース(機能生物学、人間生物学、応用生物化学)を選択し、専門性の高い授業を履修する。特に応用専攻の人間生物学コース、応用生物化学コースでは、各々、医学系、農学系の教官を中心とした、学際的な教育を受けることができる点が、生物学類の最大の特徴である。

生物学・基礎専攻は生き物の世界の法則性について理解を深め、総合的に考察する能力を養う専攻である。簡単にいえば生き物に対する尽きない興味を扱う専攻で、生物の多様性と共通性、生物の個体間や種間の相互作用、生物と環境の間の相互作用、生命の基本原理などを学ぶ。

生物学.応用専攻機能生物学コースは生物の機能解析にたずさわる場合に必要な生物学の基本知識と基盤技術の修得をめざすコースである。このコースでは遺伝子の機能、個体の調節機能や情報伝達機能などに集中して学習を進める。

人間生物学コースは「人間」に的を絞り、生物学という広い立場から「人間」という生き物を制御する基本原理や法則を学ぶコースである。したがって、生物学を十分に学ぶとともに、医学専門学群の授業で医学の基礎を学ぶことになる。

応用生物化学コースは産業への応用を前提として、生命現象の化学的解析、制御および生物の生産機能に関する基礎知識を学び、生物の事象をいかに開発・利用するかを学ぶコースである。

 履修するべき専門科目はホームページのシラバス等を参照していただきたいが、コース毎の科目選択はかなりフレキシブルである。ただし、人間生物学コースは、教室が離れていることもあり、かなり特殊な科目選択となる場合が多い。

4年次:生物学の研究方法を身につける

 3年次までに所定の専門科目の単位を取得し、卒業研究の予定教官のもとで生物学演習を習得した者は、指導教官によるマンツーマンの指導のもとで卒業研究を行う。この目的は問題解決能力の育成、研究技術と研究方法の習得、社会に巣立つ準備と研究者への第1歩を踏み出す準備をすることである。

B)生物学類のカリキュラムの特徴

(1) 国際性をめざす充実した英語教育 生物学を勉強し、研究して行くためには英語を十分マスターすることが必須である。2年次では、比較的簡単な英語で書かれた生物学の専門書を読む能力を身につけ、3年次では1人の教官に4〜8名の学生がつき生物学の英語論文の内容を正確に理解する能力を養う。このようなチューター制の授業は、教官と学生がマンツーマンで行われるため、普段疎遠になりがちな教官と学生の交流の場にもなっている。また、3年次では生物学類専属の外国人教官の授業を履修し、4年次になると卒業研究の指導教官のもとで専門に関する英語論文を理解する能力を養う。

(2) 多彩な実験と野外実習 生物学の研究はまず生物を眺め観察することから全てが始まる。そのため生物学類では 実験重視のカリキュラムを組み、卒業のためには少なくとも6科目以上の実験・実習の履修が必要である。実験は筑波大学構内の実験室で行われ、野外実習は菅平高原実験センターと下田臨海実験センターで行われる。多彩な科目名とその内容は、ホームページのシラバスを参照していただきたい。

(3) 担任制度 生物学類に入学した学生は入学時に編成された20名ずつのクラスに属し、同じ担任のもとで4年間を過ごす。4年一貫制の担任制度は担任による生活面、学習面でのきめ細かな指導の実現をめざすものである。

(4) 飛び級制  3年次までに全ての必修科目を履修し、規定単位数を優秀な成績で取得した学生は、3年次に筑波大学の大学院の博士課程を受験できる。合格した学生は4年次の卒業研究を履修せずに、大学院博士課程の1年次として研究をスタートすることができる。飛び級制は優秀な学生が1年早く大学院に進学し、その能力を存分に発揮できる制度である。

C)卒業後の進路

 以下の表に示すように、生物学類では卒業生の約80%が進学しており、この進学率は大学全体でもずば抜けて高い。その理由は、現在の生物学が今まさに飛躍的に発展しつつあり、大学院に進んでさらに見識を深め、研究の方法を習得することが、生物学を生かした研究職(企業も含む)に就職するためには必要であるからである。

生物学類卒業生の進路(平成14年度)  平成15年5月1日現在
卒業生 進学(博士・修士) 企業 教員 公務員 その他
80(35) 63(27) 11(6) 1 1(1) 4(1)
 ( )内は女子を内数で示す

 進学者の内、以下の表に示すように約半数が5年制の博士課程に進学し、その他が2年制の修士課程および他大学の大学院に進学する。博士課程は大学教員や国公立研究機関・企業の指導的研究者を、修士課程は高度な専門職業人(企業の研究職など)を養成することが使命であるが、博士課程に進学した者でも、2年で修士号を取得して企業等に就職する者もおり、また逆に修士課程終了後に博士課程に編入し、さらに研究を続ける者も多い。環境科学や医学に興味のある者が各々環境科学研究科、医科学研究科に進学し、農学との接点を求める者がバイオシステム研究科に進学する。

生物学類卒業生の大学院進路(平成13年度)
博士課程(5年) 生命環境科学研究科 34(12)
人間総合科学研究科 1(1)
修士課程(2年) 環境科学研究科 7(3)
医科学研究科 8(5)
理工学研究科 1
バイオシステム研究科 7(1)
他大学大学院 東京大学 3
北海道大学 1(1)
大阪大学 2(1)
 ( )内は女子を内数で示す

 博士課程の修了者は、以下の表に示すように、企業に就職する者に加え、大学教員や国公立の研究所の研究員を目指して、期限付きの研究員として活躍している。一方、修士課程の修了者は、多くが企業に就職するが、博士課程に編入する者も多い。

大学院修了者の進路(平成14年度  平成15年5月1日現在
研究科 修了者 企業 教員 公務員 進学者 復務・帰国 研究員等
博士課程






 生物科学 12(6) 4(3)
2

6(3)
修士課程






 環境科学 91(31) 44(13) 2(2) 9(1) 12(6) 6(3) 18(6)
 バイオシステム 85(33) 55(24) 1(1) 3(2) 15(4) 3 9(3)
 医科学 49(27) 17(8) 1 4(2) 23(12) 3(2) 5(5)
 ( )内は女子を内数で示す

 学類卒業生および大学院修了者の就職先企業等は、生物学類パンフレットの21ページに掲載されている。学類の卒業生は、生物関連企業に限らず多彩な分野に進出している。一方、大学院修了者は、製薬会社や食品会社をはじめとした生物学に関連した企業に就職している。また大学教員や国家公務員になっている者も多い。

D)おわりに

 この大学説明会に集まった若い学生諸君が生物学類に入学したあかつきには、このような恵まれた環境を最大限利用し、学類生活の4年間、さらには大学院生活を通して自己の能力を十分に発揮し、社会のため、生物学の発展のために活躍してくれるよう、切に願っている。

Contributed by Shinobu Satoh, Received August 1, 2003.

©2003 筑波大学生物学類