つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: TJB200307YI.

特集:大学説明会

宿舎生活について 「住めば都」

井崎 悠太 (筑波大学 生物学類1年)

 「住めば都」・・・どんな所でも住み慣れてしまえば、住みやすい都と同じように 住み心地がよくなるということ。To every bird his own nest is best.(「学研  故事ことわざ辞典」より)

 2003年4月、筑波大学の新入生による「楽しく快適な」学生宿舎での生活が始 まった。筑波大学の新入生は学生宿舎に入居することが多く、生物学類では約8割の 学生が宿舎での生活を送っている。筑波大学には一の矢(いちのや)、追越(おいこ し)、平砂(ひらすな)の3つの宿舎があるが、現在追越に住んでいる生物学類生は おらず、一の矢には主にAC、推薦入試合格者、女子の一般入試合格者が、平砂には 主に男子の一般入試合格者が住んでいる。宿舎は3階か4階建てで、ごく普通の安ア パートといった雰囲気を醸し出している。特に平砂8〜11号棟は外観が素晴らし く、他の棟とはまた一味違った雰囲気を醸し出し、何とも言えない感情を人々に起こ させるが、「この外観は一体何のために?」という疑問を払拭することはできない。 その疑問はその建物の内部、つまり部屋を見ることによって生まれたものである。

 「あり得ない。」入学手続きの帰りの電車の中、生物学類の新入生に配られた、先 輩が作って下さったレジュメを見た時、そう思った。「5角形?6角形?7角形?グ ランドスラム?・・・あり得ない。」去年の夏休み、受験勉強の合間に来たこの筑波 大学の大学説明会の時に、宿舎見学にも参加させて頂いた。その時公開されていた部 屋は長方形、つまり4角形だった。間違いはない。ちゃんと写真も撮った。「ホンネ とタテマエ」といういい言葉が世の中にはある。今から思えば、あれはまさに「ホン ネとタテマエ」だったのだ。誰しもが短所より長所を見せたい。それによって進学先 を決定するなら尚更だ。今私が住んでいる部屋は5角形である。先の平砂8〜11号 棟は5角形の部屋が標準装備され、一部には角をもう一つおまけされた6角形の部屋 がある。これらのために、その外観が素晴らしいものになっているのだ。その外観と 部屋の形との関係を知ってもらうためにも、次回からの宿舎見学の際には、5角形以 上の部屋を公開する事を強く希望する。

 このような特殊な宿舎で繰り広げられる生活もまた特殊なものである。まず入居者 が最初に頭を悩ます問題は家具の配置である。宿舎の部屋には、ベッド、机、イスの 家具が標準装備であり、洗面台は一部共用の棟もあるが、だいたいの部屋には付いて いる。部屋は6畳弱の広さを誇っているため、もちろん押入はなく、唯一の収納ス ペースは洗面台の下部分となっている。つまり洗面台が無い部屋には収納スペースも 無い。ではどのようにして収納スペースを作っているのか?最大の収納スペースは日 本男子の聖域、ベッドの下である。筑波の宿舎生活においてベッドの底上げは絶対で ある。だいたいの人が20〜40pの底上げをしているが、中には標準装備の机の上 にベッドを乗せている人もおり、ベッドの高さが1m近くになっていたりする。私は 30pの底上げに成功し、ベッドの下に収納ボックスを6個配置して衣類や雑貨、食 料、本などを賢く収納している。宿舎居住者のほとんどが、収納関係の雑誌に取り上 げられてもおかしくはないほどの収納上手なのである。家電類の配置については、冷 蔵庫の上に電子レンジを乗せるスタイルが主流で、ポットやジャーは金属ラックに納 めるのが筑波スタイルである。

 筑波の地が元々湿地だったためか、部屋には高い湿気も標準装備されている。湿気 など特別装備でも遠慮したい所であるが、悲しいかな標準装備である。雨の日には、 部屋に入った瞬間、眼鏡が曇るほどの高湿度である。しかしながら、この湿気から私 達を守ってくれるのが、小さなからだで大きく働く「水とりゾウさん」である。平砂 8〜11号棟の1階の部屋は通称「グランドスラム」と呼ばれ、特に湿気が高いこと で有名になっており、入居前からカビの装飾がなされていることもあるくらいで、 「水とりゾウさん」の消費量は日本一という噂も聞こえてきそうなほど重宝されてい る。またコロコロも重宝されている。部屋の床にはカーペットを敷く人が多く、6畳 弱の部屋に掃除機は豪華過ぎるので、唯一の掃除道具としてコロコロを装備している ひとが多いのである。このように宿舎生活を営む人達は日々の生活を向上させるため に努力を重ねているのであり、その努力は筑波山より高く、兵太郎池より深いもので ある。

 日々の標準装備である湿気と、生活向上のための努力などによるお肌のベトつきや ストレスを洗い流してくれるのは共同風呂である。しかしながら、風呂の営業時間と 生活時間との不一致からか、1回170円、毎日だと月約5,000円という値段か らか、心身の汚れを溜め込んでしまう人も少なくない。ところが、風呂の役目は汚れ を洗い流すだけではない。友人達とのコミュニケーションをとる場でもあるのだ。お 付き合いの中のお付き合いである「裸のお付き合い」ができる唯一の場所である。友 人とのふれあいが多いのが宿舎生活の最大の長所であり、そのふれあいは人に対して だけではない。筑波では動物とのふれあいもある何とも素晴らしい環境なのだ。実 際、先日の昼下がり、いい天気に誘われてついウトウトし、そのまま昼寝に突入して しまった。そして数時間の睡眠の後、ネコの鳴き声で目が覚めた。ふと見ると枕元に ネコがいるではないか。ビックリして慌てて飛び起きた。貴重なネコとのふれあいの 時間を持つことができたが、部屋のドアを開けたままにしていたことは公開、いや後 悔した。訪問の際にはノックぐらいしてもらいたいものであるが、ドアを開けっ放し にしていた自分にも非がある。

 筑波の宿舎生活にもちゃんと食文化が存在している。生きる上で絶対必要である 水。筑波水を飲むに当たっては、浄水器を通す必要がある。しかし、悲しいことに部 屋によっては洗面台の蛇口が浄水器取り付け拒否の意向を示している場合もある。こ の場合には煮沸か汲み置きの手段を執らねばならない。中には購入という手段を執る 者さえいるのだ。おいしい水があってこそおいしい料理ができるのである。宿舎には 補食室という調理可能な共用のスペースがあり、楽しいクッキングタイムを満喫する ことができる。食料の買い出しは主にテクノパーク桜にあるカワチ、カスミ、丸茂で 済ます。一番人気は土日のカスミである。なぜなら、試食コーナーが多く設置されて いるからである。試食ケースいっぱいのトマトを2人で平らげてしまったという人も いる。店側からすると迷惑な客だが、こちらも必死に生きているので、黙って見守っ ていて頂きたい。そして、試食の開設をさらに増やして頂きたいものである。一番人 気のある食料は「牛角キムチ」である。値段は張るが、その辛さの中に見え隠れする 旨味は他のキムチには無く、キムチとご飯だけで過ごすこともしばしばある。また、 一番人気の料理アイテムは「レンジでパスタ」である。これは、電子レンジでパスタ を茹でることができるという忙しい大学生にとって非常に嬉しい商品で、応用でそ ば、そうめんを茹でる際にも使っている人もいる。また「ジップロックコンテナ」の 使用者も多い。ご飯を冷凍するのに使ったり、料理を保存したりと様々な用途に用い られている。一人暮らしの食べ物の定番と言えばカップ麺の類だが、これについて は、食べる人は食べるが、食べない人は食べないというのが現状である。

 宿舎での洗濯は洗濯機がやってくれるが、その台数は少なく、競争率が高いために 自分が使いたい時間に使えることは少ない。このような状況であるから、洗濯物を取 りに行くのが遅れると他の人に洗濯機の中から勝手に出されていることが多い。使用 時間が定められているようだが常にフル稼働している。筑波の洗濯機に休息などない のである。宿舎一番の働き者は洗濯機だという声が聞こえてきてもおかしくはないだ ろう。

 宿舎生活が始まって早4ヶ月。実家のパソコンの前で奮闘している今も、忙しいな がらも「楽しく快適な」宿舎生活が恋しく思えてくる。「楽しく快適な」生活はそこ に住み慣れた結果であり、それは日々の弛まぬ努力によるところである。「住めば 都」。この言葉は今の私の宿舎生活にまさにぴったりである。To every student his own room is best!

Communicated by Fumiaki Maruo, Received August 8, 2003.

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