つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: 312-313.

留学

マンチェスター大学交換留学とエジンバラ大学大学院留学を通して

安藤 邦恵 (筑波大学 生物学類 平成13年度卒業)

 私は平成13年度卒業生です。大学3年の夏から、4年の夏まで、マンチェスター大学との交換留学制度の第一期生として9ヶ月間留学し、その後は筑波大学で卒業研究を沼田 治先生の指導の下で行いました。卒業後は、埼玉県和光市にある理化学研究所脳研究センターにて、研修生として3ヶ月間プロジェクト研究に参加し、平成14年の10月から、イギリスはスコットランドのエジンバラ大学神経学科の大学院にて神経学の修士課程に属して、研究をしています。まず、3年前の9月に開始したマンチェスター大学への準備と感想、次に現在留学中のエジンバラ大学での大学院生活について述べさせていただきます。

留学の準備

 大学1年次に生物学類で、帰国子女の友人達にすっかりインスパイアされた私は、誰にも負けないくらい好きな英語を、大学にいる間に伸ばしてみようと考えました。その頃、ちょうど、生物学類がマンチェスター大学と交換留学制度を結んだというニュースを知り、「これしかない!」と思いました。

 生物学類では2、3年次に授業の選択の幅がとても広がり、他学類の授業もとりたい放題になります。ワイスバード先生やメイサー先生の英語による生物学の授業を始めとし、国際総合学類など、探してみると沢山英語での講義が開かれています。私は、大学2年次にこれらの「英語で学ぶ授業」を沢山受講しました。特に、生物資源学類のDr. Taylorによる「Cell Biology」 は、本当にわくわくする程面白く、現在学部で学んでいる方々にお勧めします。あと、リスニングを伸ばしたい方には、テープライブラリーで、英語字幕で映画を沢山見ることもお勧めします。留学前には、TOEFL、TOEIC対策もしなくてはなりません。なんだか、難しそうに聞こえますが、受験英語の基礎があれば、あとはそれを伸ばすだけですので、気張らなくて大丈夫ですよ。ちなみに、マンチェスターに行きたくて夜も眠れぬ程だった私は、合格の知らせを受けた喜びとショックで、3分位顔がシワシワになったことを記憶しています。

マンチェスター大学で

 交換留学先のマンチェスター大学では、本当に沢山の素晴らしい経験をさせていただきました。全てが新しく、一日中目を開けて見られるものを全て眼に収めたいような、ものすごい興奮の毎日でした。フラットは女子学生10人でシェアし、イギリス人4人、フランス人2人、中国人1人、ポルトガル人1人、イタリア人1人、日本人1人でした。イギリス人だけでなく、他の国々からの留学生の常識、人生への姿勢、人々の考え、全てが面白い!彼女たちと一緒に、飲んだり踊ったり、政治の話やファッション、勉強について毎晩夜中までおしゃべりしていました。  しかしながら、本業である学業のことになると、英語で勉強、研究するのは、やはり簡単ではありませんでした。私は無謀ながら、大学2、3年生向けの、薬理学の授業を週に4時間受講しましたが、全く知らない分野で、英語で、しかも進みが異常に早く、恥ずかしながら全体の5%位しか理解できませんでした。これからマンチェスターに行かれる学生さんには、大学1年生向けの講義で、かつ自分の知っている分野だと、確実に単位が取れるのではないかとアドバイスしたいです。

 また、研究室にも参加させてもらいました。運動障害の研究をしているDr. Brotchie の下で、Tofisopamという抗鬱剤が、Ratの脳にどう作用するか、という研究をしました。初めての研究で、新しく学ぶことばかりでした。ゆっくり話してもらっても難しい学術用語が入ると理解できず、悶々とすることも多かったです。研究室のメンバーが12人くらいで、皆バリバリでした。ボスのBrotchie先生は2メートル位背があって、恰幅が良く、迫力があって、しかもたまに苛々していて、私はいつも緊張してばかりでした。実験結果から、抗鬱剤であるTofisopamが、Opioid受容体のアゴニストへの感受性を上げている事がわかりましたが、正直をいうと、今、もう一度同じプロジェクトを出来たなら、もっといろいろなアゴニストを使って比較することなど、研究内容を濃く出来るだろうと思い、少しくやしく感じています。私の初めての留学は、単位は取れないは、担当教官恐怖症にかかるやら、で、挫折も多かったのですが、素晴らしい友人を得、異文化の中で日々成長していくことで、「頑張って、挑戦していけば何とかなる」というような自信と根性を身につけられたと思います。

一時帰国と卒研

 帰国後には、沼田先生の指導の下、伸長因子-1α(EF-1α)の性状解析を卒業研究として取り組みました。この時に、炎のように熱く、エネルギーあふれる沼田先生とのデイスカッションを通し(たまに雷も落とされました)、一番大切なのは、手を動かし、頭で考え、研究室の人々とコミュニケーションを取っていくことだ、と学びました。忘れられない、素晴らしい経験です。

エジンバラ大学大学院で

 現在は、エジンバラ大学大学院の修士課程にいます。私の受講しているコースは、1学期は神経学について各分野の専門家の講義を受け(朝9時から夕方5時くらいまで)、2学期に3ヶ月間の実験プロジェクトと筆記試験、3学期には2学期とは別の研究室で再び3ヶ月のプロジェクトに取り組み、最後に3学期のプロジェクトの内容を10,000語以内の修士論文にまとめて、コースが修了します。

 エジンバラでの苦労話を話しはじめたら、キリがありません。まず、1学期の時点で、奨学金から授業料と宿舎費を引かれると、ほぼ文無しになることに気づき、「盆栽」という、怪しげな名前の日本料理屋さんでウエイトレスのアルバイトを始めました。スコットランドは、ものすごく美しくて、歴史的な建造物が立ち並び、緑が多く、最高の環境ですが、本当に物価が高いのです。例えば、日本で200円位のサンドイッチが400円―500円位で店に並んで、実際多くの人がそれをお昼に食べています(しかも、私にはそれじゃ足りません!)。この日本料理屋さんで、非常によくして頂き、結果的に10ヶ月近くそのアルバイトを続けさせてもらいまして、なんとか生き延びました。ナハハ。

 2学期は、エジンバラの大学病院で神経病理学のプロジェクトを取り組みました。HIVや、HIV・AIDS、麻薬中毒などの脊椎に及ぼす影響を調べるため、これらの症状を患って亡くなった患者さんの脊椎のスライスを様々な抗体で染色し、ブラインドスタディの形で組織がどう変化していくかを見ていきました。研究自体、夜中に夢に見るほど面白く、脊椎組織学を体得できました。脳の研究は沢山なされていますが、脊椎については研究論文がずっと乏しく、2、3の新しい発見をすることができました。夜中までかかったこともしばしば、担当のバリバリの研究者に大目玉を食らって一人で泣いていたこともありましたが、面白く、大変やりがいがありました。

 3学期には大学の神経科学研究所で、分子生物学のプロジェクトを行いました。大学病院では、ベテランの研究者が多く、皆大抵朝8時には実験を始め、5時には帰る、という感じでしたが、この神経科学研究所では、学生が多く、朝9、10時位に皆実験を始め、中には夜中の10時位まで毎日実験をしている人も目立ちました。にぎやかで、皆仲良く、実験生活が本当に楽しかったです。ここでも沢山実験することが出来、最後に面白い結果も得ることが出来ました。つい先日に修士論文を提出しまして、今年、この修士コースを修了します。

留学の勧め

 この2回の英国留学は、私にとって、本当に面白くて、素晴らしい経験でした。確かに、辛いこと、例えば、マンチェスターで授業についていけなかったこと、エジンバラでの極貧生活、英語での論文作成、英語が分からないという事で生まれる劣等感、実験が失敗続きで落ち込む(これはあまり留学に関係ないですね)など、色々あるのですが、知らないことを吸収して、英語の上達を感じ、新しく知り合う人々との交流などを通して、人生は本当に面白いな、と日々感じられます。後輩の皆さんにも心底留学をお勧めします。

筑波大学の素晴らしさ

 筑波大学では、本当に沢山のことを学び、沢山の面白くて個性の強い友人、素晴らしい先生方と出会う事が出来、人生の大きな糧を得ました。確かに、つくばには、あまり娯楽の選択肢は無いのですが、施設(ジム、プール、テープライブラリーなど)は使いたい放題、他学群の授業もとりたい放題、また、生物学類には、教育熱心でいつも我々を気にかけてくださる先生方や事務の担当の方など、相談にのってサポートして下さる方々がいらっしゃいます。後輩の皆さん、興味のあることには何でもチャレンジして、色々挑戦して可能性を広げてみて下さい。数え切れないほどの可能性がある中、それを選択して、前に進んでいくのは、あなた自身です。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received September 17, 2003.

©2003 筑波大学生物学類