ゾウリムシのバリウムダンス:

ゾウリムシはBaイオンを含む溶液中で、自発性の活動電位を発生し、それに伴い、繰り返し後退遊泳を行います。このビデオは、暗視野照明で撮影したもので、ゾウリムシが白く写っています。体の向きが変わらずに進行方向が反対になるのが後退遊泳です。後退遊泳が終わった後、前進遊泳に移る時は、体の向きが大きく変わっています。

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ゾウリムシとは

 繊毛虫類に属するゾウリムシは、大型の単細胞生物です。細胞の長さは200ミクロンほどあり、体表にたくさん生えている繊毛を打つ事により遊泳します。

 通常は餌となるバクテリアを食べて、二分裂で増殖しますが、条件により、細胞の接合を行い、有性生殖をします。この際、核の交換を行い、遺伝子の多様性を増すのは高等動物を同様です。ゾウリムシには、遺伝子発現をになう大核と遺伝情報を次世代に伝える小核という二種類の核があります。

 ゾウリムシの遊泳を眺めてみると、普通に泳いでいる時は進行方向に向かって、左の螺旋を描いています。このらせん運動は細胞にかかる2種類の力により説明されています。まず、体表全体を覆っている繊毛が、ゾウリムシから考えて、一様に左斜め後方に向かって打っているために、細胞を前方に押す力と細胞を進行方向左に回転する力が生じます。これだけでは、ゾウリムシは自転しながら直進して螺旋は描かないと考えられますが、ゾウリムシは遊泳のための繊毛の他に、餌を取り込むための特殊な繊毛も持っています。この繊毛は当然、細胞の一カ所にある口部装置の周りに限られるため、細胞に偏った力を及ぼすことになります。口の部分はゾウリムシの細胞の重心よりやや前方にあるので、口部の繊毛が発生する、口の部分で細胞表面に鉛直方向にかかると考えられる力は、ゾウリムシの自転軸から常に口を外側に押し出そうとする、ゾウリムシの短軸を軸にした長軸方向の回転力を生じます。これらの力がゾウリムシの螺旋遊泳の原因とされています。しかし、最近の実験では、口の部分がないゾウリムシの断片でも、しっかりと螺旋を描く事が確認されており、螺旋遊泳の原因はどうやら他にあるらしい事が示唆されています(私の研究室に在籍した原田敬士君の卒業研究)。

 上に示したビデオでは、ゾウリムシは螺旋状前進遊泳だけではなく、頻繁に後退遊泳をして、遊泳の方向を変えています。ゾウリムシはいろいろな刺激により、遊泳の仕方を変える事が知られており、これは、ゾウリムシがいろいろな刺激を受容する能力を持っている事を示しています。

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