高等植物の細胞は、細胞壁に囲まれていて、それを通して外界や他の細胞との情報交換を行っています。
以下の写真がニンジンの茎の細胞から誘導したカルスです。ニンジンのカルスは、培養条件により、胚(体細胞胚=不定胚)を形成することができます。この過程は、種子の中で起こる接合子胚形成の良いモデル系として知られています。
我々の樹立した胚を作れないニンジン細胞株では、カルスの細胞同士の接着ができ難くなり、大きな細胞塊を作れなくなっています。
細胞壁の構造を解析したところ、植物の細胞接着を行うペクチンという多糖の構造に変化が見つかりました。
これらの変異体ではペクチンの構造に異常が生じていることが判明し、変異体の遺伝子解析の結果、新しいペクチン合成酵素(ペクチン-グルクロン酸転移酵素)遺伝子が同定されました。この遺伝子の発現を抑制すると植物体がボロボロになります。この酵素の働きにより作られるペクチンの構造(RG-II)は、植物の必須微量元素であるホウ素を介してペクチン同士を結合する働きを持ちます。この遺伝子は、分裂組織などに加え、花の受精に関わる組織でも発現して働いています。
一方、植物個体では組織が傷害を受けた時や接ぎ木時に切断組織の再接着(癒合)が起きます。植物の茎が傷つくと数日で柔組織細胞の分裂が始まり、約一週間で維管束も連結して癒合が完成します。維管束の再生と分化にはオーキシンとサイトカイニンが関わっている事が判明していますが、皮層等の柔組織の癒合過程は解析されていませんでした。我々は、土壌病害回避のためによく接ぎ木が行われているキュウリやトマトを用い、切断された胚軸の癒合過程を解析し、皮層の組織癒合時に必須な細胞分裂が、子葉から供給されるジベレリンによって制御されている事を見いだしました。現在、遺伝学的解析に適するシロイヌナズナの花茎を用いて同様の解析を行い、マイクロアレー等を用いた遺伝子の発現・機能解析とホルモンによる制御機構の解明を進めています。
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岩井宏暁
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講師 | タバコ(プランバギニフォーリア)培養系を用いた細胞接着・細胞壁多糖(ペクチン)機能/合成に関するミュータントの作出と分子遺伝学的解析 |
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山川清栄
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産学官連携研究員(生研センター) | アクティベーションタギング法による細胞接着変異体の作出と遺伝子解析 |
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矢澤克美
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産学官連携研究員(生研センター) | LRR-エクステンシン遺伝子の解析による細胞接着機構の解明 |
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朝比奈雅志
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日本学術振興会特別研究員 |
植物組織(キュウリ・トマト胚軸、シロイヌナズナ花茎)の癒合過程の制御機構とジベレリン作用の解析 |
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ビダディ
ハニエ |
生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 3年 |
植物組織の癒合過程の制御機構とジベレリン作用の解析 |
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山崎貴司
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生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 2年 |
シロイヌナズナ切断花茎の癒合過程における細胞壁生合成調節機構の解析 |
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東野桂子
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生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 2年 |
ペクチン-アラビナン長鎖合成関連遺伝子の分子生物学的解析による細胞接着機構の解明 |
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松澤啓介
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生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 1年 |
タバコ培養細胞を用いたアクティべーションタギング法による細胞接着変異体の作出と解析 |
液体培地中で培養しているカルスや不定胚は、培地の中に様々なタンパク質を分泌します。それらの多くは、種子の中で胚が形成される時にも合成分泌されます。
その中の一つで、培地中でゲル状に不溶化しているタンパク質が見つかりました。種子の中では、胚と胚の周りに胚を取り囲むように存在しています。
研究テーマ