つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 74-75.

特集:大学説明会

在校生の話 ―授業について―

石川 香 (筑波大学 生物学類 3年)

 大学説明会にスタッフとして参加するのは、今回が2回目になる。参加してみるとよくわかるのだが、大学説明 会は想像以上に大きな行事で、教官、事務職員、学生スタッフそれぞれがそれぞれの持ち味を活かしつつ力を合わ せて初めて成功するものである。限られた時間の中でいかに生物学類の良さをアピールするか、また生の様子をい かに肌で感じてもらうか、ということが大学説明会全体を通しての課題となるわけだが、今回私はその一端として、 生物学類の授業について参加者にスピーチするという大役を授かった。以下が、その際に話したおおよその内容で ある。

 こんにちは、生物学類3年の石川です。

 今日ここに集まって下さった皆さんは、生物に多少なりとも興味を持っている人たちなのでこんなこと言わなく てもよーく解っていると思いますが、生物学は非常に広く、かつ深い学問です。何しろ対象として扱う生き物がこ れだけ多様性に富んでいる訳ですから、扱う領域は嫌でも広くなりますし、これだけいろいろな技術が発達した今 でさえ「この生物に関しては全てが解明された」と言える生き物はまだ一つもないのですから、非常に深い訳です。 その広くて深いまるで海のような学問を、つくばの生物学類ではどのように学んでいくか、ということについて簡単にお話したいと思います。 つくばの生物学類に入学すると、1年次でまず皆さんは8つの「概論」と名の付く講義を受けることになります。 これは高校の生物学の知識から大学の専門の勉強に入るための入門編を成すものです。また実験も、これからどん な専門に行っても使うことになるであろう基本的な機器の操作や、生物学的なものの見方・考え方を養うための基 礎的なものが組まれています。ここで解剖に使ったカエルなどをから揚げにして「おいし〜」と言うようになって しまったら、もう皆さんは立派な生物学類生です。

 2年次になると4つの主専攻コースに分かれますが、実際のカリキュラムはかなり柔軟性があって、一部の授業を除けばどのコースの授業でもほとんど自由にとることができます。私自身も機能生物学コース専攻ですが、実際 には基礎生物学コースや人間生物学コースの授業も多く取っています。2年次以降の授業では、次第に専門的な内 容の比重が高くなって、先生の個性も強く現れてきます。

 生物学類の大きな特徴の一つとして、その規模の大きさが挙げられます。他大学の生物学科を見てみても、生物だけで一学年80人規模を誇る学科は、まずないでしょう。生物学類は、規模が大きい分、教官の人数も他の大学に 比べてかなり多くなっています。大学の教官は高校の先生のように広く全体をカバーするのではなく、生物学のあるポイントを深く研究している訳ですから、他大学のように教官の人数が少ないとそれだけカバーできる領域は狭 くなってしまいます。それはつまり、学生の選択の幅も狭いということです。しかしつくばの生物では様々な研究 をしている個性豊かな教官がたくさん揃っていますので、地球規模を扱うマクロな生態学から電子顕微鏡を覗くナ ノスケールのミクロな分子生物学まで、生物学のあらゆる領域を一通りカバーしています。ですから、現時点で「生 物学類でこういうことを学びたい」と具体的な興味の対象が定まっている人は勿論、「生き物は好きだけれど、具体 的にどんな専門分野をやりたいという方向性はまだ定まっていない」という人も、生物学類に入って3年間の講義や実験を経験すれば、自分にあった専門分野、そして自分と合いそうな教官と出会えるはずです。

 また、もう一つの大きな特徴は人間生物学コースという主専攻コースの存在です。ヒトというのは私達が最もよ く知りたい生物の一つである訳ですが、ほとんどの大学では「ヒトの生物学」は「医学」として扱われ、医学部で しか学べません。しかし筑波大学ではヒトの生物学を純粋なサイエンスとして理学系の生物学類でも学べるシステ ムになっています。しかも先程言った柔軟なカリキュラムによって、人間生物学コースでない人でも人間生物学コー スの講義に参加できるのは生物学類ならではのメリットです。

 そしてこの環境。皆さんの中には、今日遠路はるばるここに来られて「なんて辺鄙なところにある大学なんだろ う」という印象を持った方もいるかもしれませんが、生き物好きなナマモノ学類生にとっては、それはかえってメ リットなのです。2年次に取れる実験の一つに、大学構内や近辺から動植物を採集してきて分類・同定するという ものがありますが、その実験を経験すると、この大学内だけでもいかに多くの動植物が生息しているかが解るでしょ う。実は学内のどこかにマツタケが生えているという噂もあるくらいです。私はこの間、生物学類のある部屋でこ れまで日本では記載されていないかもしれない昆虫の一種を発見して、今昆虫学の先生に同定をお願いしています。 そんなゆとりある環境の中で、充分な設備を使いながら学べる大学は少ないと思います。しかもここは研究学園都 市のど真ん中で、最先端の研究が行われている研究施設が廻りにたくさんあります。そのうちのいくつかの研究所 では、4年次の卒業研究や大学院での研究を行う学生を受け入れています。  以上のように、筑波大学の生物学類は柔軟なカリキュラム、教官の人数、環境などあらゆるファクターが、皆さ んの選択肢と可能性を広げる要素として活きています。生き物が好きな人、大学で生物学を学びたいと思っている人、是非つくばの生物学類で充実した生物ライフを送ってください。

質問:「今までで一番印象に残っている授業は何ですか?」

同じ授業でも、受ける人によって印象は違ってくるので何とも言えませんが、先日菅平で受けた動物分類学野外実習の昆虫学の講義は印象に残っています。これは一番最近に受けた講義なので強く印象に残っているということ もあるとは思うのですが、私は基本的に虫好きなので、興味深かったです。

 また、先程登場した学類長の発生学の講義は、ひっじょ〜に熱いです。聞いていると、こちらがエネルギーを吸 い取られるような気持ちになるくらいです。生物学類には個性豊かな教官が多いので、各教官の授業の好き嫌いは 人によって分かれるところですが、個人的には、学類長が熱く語る発生学はお勧めです。ちなみに学類長の講義は、 1年次に必修で取る「発生学概論」でも必然的に聞くことになりますので、その時に皆さんなりの印象やイメージ を持ってください。

 この内容で、課題である「生物学類のよさ」や「生の様子」を参加者にどれだけ伝えることができたかについてはやや心もとないのだが、今回の説明会をきっかけに一人でも多くの高校生が「生物学類に入りたい」と思ってく れたら幸いだと思う。

 大学説明会は毎年暑い最中に行われ、午後の施設見学に向かう参加者の足取りも何となく気だるそうに見えるの が事実だ。だが、目の前に並べられたカブトガニの標本やらハエのビンやらを最初は遠巻きに見ていた高校生達がおそるおそるそれらを手に取り、じっくり眺めるうちに次第に眼が輝いてくる様子を目の当たりにすると、「この行 事も決して無駄ではなかったんだなぁ」と思わされる。なんだかんだ言って、私は案外この行事が結構好きなのかもしれない。

 今回の説明会が真に成功したと言えるかどうかは、参加者のアンケートの集計結果や来年の新入生全体に占める 説明会参加者の割合などを検討してみないと判らないが、個人的には達成感を感じている。今回、学生スタッフの 不足に伴って半ば強引に私に誘われて参加してくれた友人達に感謝すると共に、来年の新入生の中に多くの説明会 参加者がいることを祈りつつ、私のつたないスピーチの紹介を終えたいと思う。

Communicated by Hideko Urushihara, Received August 2, 2002.

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