つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 82.

特集:大学説明会

施設見学:遺伝子実験センターコース ―反省点と来年度への提案(1)―

坂本 和一 (筑波大学 生物科学系)

 猛暑続きの夏と言われるようになって久しいが、まだ午前10時を回ったばかりというのに、早くも32度を超える暑さの中で本年度の大学説明会は始まった。ここ筑波大学でも、毎年大学説明会が行われていることは知っていたものの、実際に説明会の現場に参加させて頂いたのは今回が初めてである。生物学類説明会の取りまとめ役として参加した立場からいくつか気がついた点を述べさせて頂きたい。

 説明会の成否の鍵の一つは、生物学類選択の300人を超える参加者を対象に、全てのプログラムを時間通りに粛々と進行させることが出来るかどうかに関わっている。もちろん、生物学類の特色や魅力の全てをあますことなく理解してもらうという本来の目的を果たすことは言うまでもない。取りまとめ役の立場として最も気を遣ったのは、限 られた時間の中で盛り沢山の内容を、滞りなくいかに速やかに進行させることができるかにあった。幸い、TAの学生の献身的な努力や関係者の積極的な協力もあり、全てのプログラムは大きな障害もなく、ほぼ満足できる形で時間通りに終了させることができた。説明会に参加した高校生も十分な満足と、再来を期してつくばの地を後にし た、、、、、そのはずである。ただ、本当にそうであったろうか。果たして、彼らは必要とする情報を望み通りに得て帰路につくことが出来たのであろうか。

 もし次年度の説明会に向けて反省すべき点があるとすれば、限られた時間の中で分刻みのスケジュールに追われ るあまり、余裕のある時間枠が無かったことかもしれない。特に、今年度の施設見学会の特徴は、希望に沿って参 加者をあらかじめ7つのコースに分け、それぞれのコース毎に施設見学と研究内容の紹介を行った点にある。私は遺伝子実験センターコースを担当した。90人あまりの参加者を3つのグループに分け、「動物細胞」、「枯草菌」、「粘菌」の3つの研究室を順番に見学してもらった。途中、参加者同士が鉢合わせするトラブルはあったものの、進行 自体は概ね順調であったと思う。遺伝子実験センターの誇る最先端の研究施設の見学やグループ毎の先進的な研究内容の紹介も順調に行われた。ただ、やはり難点は、研究紹介や施設見学に追われるあまり、また一グループ当た り30名以上という人数の多さもあり、箇々の質問や雑談に応じる時間的な余裕がなかった点にある。高校生の多くは、教官や筑波大生との雑談めいた意見交換や学類HPからは知り得ない情報を望んでいたように思う。中には、研究に関してもっと専門的な内容を質問する生徒も見受けられた。残念なのは、時間を気にするあまり、質問を打ち切って次のスケジュールを優先せざるを得なかったことである。暑い中、遠方よりつくばの地まで足を運んでくれたことを考えると、個々人と向かい合いながらより多くの質問に応じてあげられなかったことが今でも心残りであ る。

 説明会の本質は、筑波大学生物学類の魅力と特色を十二分に高校生に理解してもらうことにある。わざわざ大学まで来てもらう利点は、普段は立ち入ることのない教育と研究の現場を自分の眼で確認し、普段は接触する機会が 少ない教官や学生の生の意見を聞くことであろう。スケジュールに時間的な余裕がないことは十分に理解しているが、ならば終了時間を延長してでも、30分程度の自由な質問・意見交換の時間枠をつくるべきであると思った。そ こで来年度に向けた具体的な堤案としては、小さなコース分けを止め、あらかじめ設定した施設見学と研究紹介の 場に参加者の自由意志で好きな所を訪問してもらってはいかがだろう。まず、施設見学に関しては、受け入れ可能 な研究室や研究施設に教官やTAを配置し、希望者が自由に立ち寄って説明を受けながら見学をする。また研究紹介 に関しては、学会等のポスターセッション方式とし、ポスター毎に配したTAの説明を聞きながら、自分の興味のあ るポスターを好きなだけ自由に見学してもらう。ポスター会場は、体育館などの大会場か、もしくは隣り合った複 数の講義室を開放して使えばよい。特に、スケジュールが決まってないため、研究に興味のある人は質問に時間を 割くことができるし、研究の説明に飽きた人は施設見学に足を向けてもよい。教官もTAも、移動の手間やタイムスケジュールに煩わされることなく、個々の訪問者への対応に専念することができるのではないだろうか。

 見学会の一連のプログラムを終え、参加者の多くは次の宿舎見学会場に向けてセンターを後にしたが、名残り惜 しそうに幾度となく後を振り返っていた生徒の顔が今でも忘れられない。春になり、この場所で再び彼らの笑顔に会えることを期するばかりである。

Contributed by Kazuichi Sakamoto, Received September 12, 2002.

©2002 筑波大学生物学類