つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 80-81.

特集:大学説明会

施設見学:植物系研究コース ―報告と反省―

佐藤 忍 (筑波大学 生物科学系)

 植物系研究コースでは、以下の3つのサブコース(各20分ずつ)を設定し、全員が順番に各サブコースを回った。 参加者は計25名で、うち父兄が2人、高校教員1名であった。

 以下が参加者に配布したプリントの内容である。

植物系研究コース

*藻類や高等植物を用いた植物系統分類学、代謝生理学、植物生理学の研究の最前線を見学します。 (三つのサブコースを順番に4年生・大学院生(TA:下線)がご案内します。遠慮なく何でも質問してください。)

サブコース1 D508, D302(TA:石原)
・各種藻類の形態や運動を顕微鏡やビデオを用いて観察する。
 (植物系統分類学(井上・中山)研究室)
・藻類を用いた光合成・代謝研究の様子を見学する。海洋植物プランクトンが生産するバイオクリスタル(炭酸カルシウム結晶)を偏光顕微鏡で観察し,バイオナノテクノロジー研究の魅力に迫る。
 (代謝生理学(白岩)研究室)

サブコース2 2D320(TA:渡辺)
・タバコの培養細胞や形態に異常の起きた突然変異体の観察、キュウリやシロイヌナズナ等を用いた形態形成・発生研究の様子を見学するとともに、根の形成に異常の起こったシロイヌナズナ突然変異体の観察を行う。
(植物生理学(佐藤・酒井)研究室)

サブコース3 遺伝子実験センター(TA: 田島)
・遺伝子実験センターにおいて、遺伝子組み換えアサガオ・シロイヌナズナ等を用いた花芽形成・概日リズム研究の最前線を見学する。また、ニンジンの不定胚形成の様子を顕微鏡を用いて観察する。
(植物発生生理学(溝口・小野・鎌田)研究室)

 人数が比較的少なかったので混乱無く進行したが、3つのサブコースを設定したため、各サブコースの持ち時間 が少なく、終了時間が大幅に遅れたのが問題であった。しかし、各サブコースで特徴有るプレゼンテーションが行 われ、参加者からは好評であったようである。以下に3つのサブコースを担当した4人のTAの意見を掲載する。

岡本典子

 今回は、10〜15名のグループを3つ受け入れました。その際に問題になったことは、次の点です。

  1. 引率のTAがスケジュール・場所を把握していない。
  2. 時間配分が難しい。(これは、興味がなさそうな人もいれば、質問をしたそうな人もいるので、一概に長くす ればよいとか短くすればいいという問題ではない)

 これらの問題は、次のような原因が考えられます。

高校生に各研究室で見学できる内容の周知が行われていない弊害
見たい部屋のつもりでコースを選んだのに、想像していたことと内容が違うことがある(往々にして、高校では 考えつかないことを、大学ではやっているものです)。特に、他のコースにも興味があったが、その部屋のためだけ にそのコースを選んで、内容が興味から大幅にずれていた場合、やりきれない(人もいる)。
一律にコースを振り分けてしまう弊害
見たい部屋が一部しかない時、見たくない部屋にいるのは、時間の無駄になる。特に、見学したい場所が、複数 のコースにまたがっている時は相当損した気分になる(かも)。
人数調整の加減で涙を飲む人もいるのでは?

 以上のようなことを考えると、より高校生に満足してもらうには、最低限、各研究室の簡単な案内、もしくは、見学会では何を見ることができるのかを各研究室につきA4で1ページくらいずつ用意して、事前に高校生に配布する (最悪でも昼食時に読んで選べるようにする)ことが必要でしょう。Web上で確認できるなら、より望ましいと思います。またこれによって、参加できなかったコースの内容もある程度知ることができるので、一石二鳥の効果があ ります。また、コースの振り分けについては、人員の配備の都合上やむをえないことも理解できますが、もう少し 自由度が高くすべきです。これは、反省会で提案があったそうですが、オリエンテーリング方式にするという案は、なかなかよいと思います。引率についているTAをチェックポイント(?)に配備し、迷子などの対応をすることに なるでしょう。また、各部屋の込み具合や、シークレット実験(あるのか?)などの情報を得ることができるよう にすると、楽しく円滑な見学会になると思われます。

 この方式では、関係ないところに高校生が迷い込んでしまう懸念もありますが、高校生対象見学会はそもそも大 学全体が一丸となっておこなうものですから、予定外研究室にも、迷子対応をしていただくのも、当然のことでは ないでしょうか?  予定より長くなりましたが、以上2点、D508にて対応・協議したうえで、学類長に提案させていただきます。

石原麗子

(よかった点)
・高校生の方々が迷うことのないようにつねに引率がしっかりしていたこと.
・各施設での見学にとても満足していただけたようでよかったと思います.
*この二点は見学にいらっしゃってたお母さんなどにお褒めをいただいた点についてです.
(悪かった点)
・時間厳守が基本的にできていなかった.最終的に施設見学の途中でバスの時間になったりで帰らざるを得ない子 たちもでてきてしまったのでこれはしっかりするべきだと思います.
・見学の方たちが今どこにいるのか?何故時間になっても来ないのか?ということを分かっている人がサブコース の3研究室のだれも把握できていなかったように思います. (今度の改善点)
・誰か一人,団体を常に引率するような人をつけて,その人にタイムキーパーもやっていただけばよいのではない でしょうか?そうすれば,与えられた時間を大幅に超過した場合にも対応できるし,団体がどこにいて,いつ施設 に訪れるかが分かると思います.

田島武臣

  • 高校生の見学ルートと班分けに関しては、人数が少なかった分問題は起こらなかった。しかし、途中から宿舎見 学をする人、定時バスで帰る高校生がいたなど、知らさせていない事象が起きた場合の対処に困った。人数がもし 多くなった場合一人で対処するのはきびしいと感じる。
  • 研究室が遠いという観点から、コースを考えたほうが良いと感じる。いたずらに、短い時間を移動時間にとられ ることはナンセンスである。もし、できれば同じ建物内で階を移動するぐらいにした方が良いのではないかと提案 する。また、他の問題点として、案内する人が決められた場所から場所へ移動し戻り、見学グループの案内者が変 わるところに問題がある。サブコース1〜3を同じ案内者がグループと一緒に順番に移動すれば、最初に決めたグ ループを最後まで責任もって移動することができる。
  • 研究の内容を高校生が理解し刺激を受けているのか、高校生のボーっとした態度に疑問が残る。私は高校生たちがもっとキラキラした目で研究室を見学できたらよいと思った。(改善策はわかりません。)

渡辺洋介

 今回研究室案内の際の学生誘導というほんの一部ではあるが大学説明会というものに携われてよかったと思う。こ のようなことが毎年行われていて、300人もの学生が来てくれていることに少し驚愕した。

 さて今回の大学説明会の反省、意見ということで考えてみると、時間に関することで少し思うところがある。

 全体のスケジュールからすると仕方ないのかもしれないが、1研究室20分というのは説明する側としては少し足 りないように見えた。結果3時半に終了するはずが4時半くらい?に終了した。この時に研究室側が20分時間厳守 というものをどこまで真剣に考えていたのか疑問に思えた。学生たちは人によってはその後も宿舎見学などの予定 があるわけで時間がどんどんおしていくことでそういったことにも影響が出かねないため、20分と決まったなら20分で終わるように時間の厳守をもう少し徹底した方がよいと思う。

 説明する側として時間が足りないと感じた一方で、学生側からすれば朝からずっと説明され続けて1研究室30分 も、40分も説明されたら疲れてしまうのかなとも思う。実際ちょっと疲れ気味の人もいたような気がする。

 いずれにせよ学生たちがこの研究室案内で実際に筑波大の研究室ではこんなことをやっているのかということを 見て、生物学にさらなる興味を持ってくれるかもしれないこの機会において、我々はこれまで以上によりわかりや すく、彼らが興味を持つようにプレゼンテーションを行う必要があると思う。

 以上を総合して全体のアレンジとしては、1)計画に無理があった(3研究室は多すぎた)、2)学類生のTA2 名を有効に活用しなかった、3)各研究室への事前説明(プリント)が足りなかった、が担当した私の反省点とし てあげられる。  来年以降もし同様の形態での説明会をするならば、井上(中山)研究室、白岩研究室、酒井(佐藤)研究室、鎌田(小野、溝口)研究室の中から2研究室に絞って見学を行うのが良いと思われる。その際、できれば事前に見学 内容をホームページ上に公開しておいて、参加希望者数の調査をしておくと準備が整いやすい。TAとしては、研究室で説明を担当する者と、ツアーコンダクターを明確に分けておく必要があり、前者には大学院生を後者には学 類生を当てるのが良い。今後ますます大学説明会の重要性は高まると思われるので、担当する教官はしっかりした 認識を持って臨まなければならない。

Contributed by Sinobu Satoh, Received August 2, 2002.

©2002 筑波大学生物学類