つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 116.

特集:生物学類の国際交流事業

異文化の中で

鈴木 郁美 (筑波大学 生物学類 4年)

 今回一年間のマンチェスターの生活は大きく2つのことを体験したといえる。一つはイギリスの研究室で、外国の研究室の雰囲気をみること、二つ目は海外での生活を楽しむことであった。とくに、海外経験のなかった私にとって、ひとつの大きな冒険であったともいえよう。

 まず、研究室のことにふれると、Professor Ian RobertsのThe role of cell surface polysaccharides in bacterial infections of man and plantsを研究テーマとするところで研究を行なった。私は,筑波大学の2年次あたりから、微生物を扱った、酵素の応用について興味があった。そこでは、大腸菌K5の表面に存在する polysaccharidedeを分解するlyase(KflA)についての性質の解明を任された。KflAはK5 polysaccharideをβ-elimination 反応により分解する。K5 poly-saccharideはheparinやheparin sulfateと構造が似ており、さらにKflAもheparin、heparin sulfateを基質として認識し分解できる。Heparinは抗凝血剤として医学的に使われている。KflAの性質の解明はheparinの構造解明や、またKflA自体の商品化に役立つと期待される。この実験を行うために、まず、酵素の単離、精製をして、さらに基質となるpolysaccharideの単離も行った。

 初めて本格的にする研究でもあり、右も左もわからない状態であったが、私の担当として2人の方が常についてくれて、研究室の人もいろいろ快く教えてくれたので心配することはなかった。研究室は20人ほどいたが、ほとんどイギリス人で、また、イギリスの学部生が研究室に1年間もいることはない。そんな中で、私はとても目立つ存 在であった。日本人であることもめずらしかったようだ。朝研究室に9時頃きて10時にはコーヒータイムをとる、昼にはPubで食事をし、そして5時に帰宅。イギリス人の人達といることでイギリスののんびりとした生活の雰囲気も楽しめた。

 研究室のイギリス人ばかりの雰囲気と異なり、研究室を終えた後の生活は寮での友達と過ごす時間となった。寮はFlatとよばれる単位で区切られており、10人のFlat mateとkitchen をshareしたりした。私がいたところは国際色豊かで、イタリア、ガーナ、ケニア、ドイツ、香港、4人のイギリス、そして私という構成であった。私以 外は、英語にみな堪能であったことに驚いた。彼女たちともすぐ仲良くなり、彼女達の話し、行動すべてがとても 興味深く、そうして英語が下手でもたくさん話すことで、私の英語力は随分あがった。そんな私を日本というヨー ロッパの文化、言葉からかけ離れたところからきたことに理解をしめしてくれた彼女たちにはほんとうに感謝して いる。そして、友達というものはどこでも友達であるということをつくづく実感したものであった。また、イギリ スにはヨーロッパなど他の国からの学生もたくさんいたので、彼らといろいろな場所での交流は刺激的でとても 楽しかった。違う文化に触れることは、自らの価値観を離れ物事をみる意味でよい機会です。ここで経験したこと は私の人生のなかで大きな意味をもつことは間違いない。そしてまた、国がどこであれ、違う言葉を話す人でも友 達は友達である。そして、英語という国際語を得ることで、いろいろな国の人と交流できるようになれたことは、世 界に対して一つの大きなドアを開いたような感じである。

 自らの人生をどのように切り開き、可能にしてゆくかは自分しだいだ。自分らしい人生をactiveに生きてゆく自 信を得た、そんな留学であった。何かをしようと思ったとき、いつでも準備不足のように思う。そこで、思い切って飛び込む勇気も大切ではないであろうか。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received October 10, 2002.

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