ゾウリムシの行動反応の制御機構

その2:膜電位による制御

 ゾウリムシが障害物に衝突した時や、捕食性の生物に追われた時、まず、ゾウリムシの細胞では膜電位反応が生じます。有害な化学物質を含んだ溶液に遭遇したときも同様に膜電位変化が生じます。さらに、光に反応するミドリゾウリムシが光を受容した時にも電位変化が生じ、熱を感じた時にも電位変化が生じます。これらの膜電位反応に伴って、ゾウリムシの繊毛打の打ち方が変わり、それにより、遊泳が変化します。すなわち、ゾウリムシの行動は膜電位で制御されているという事ができます。

 前のページにでてきた回避行動を例にとってみましょう。

(1)に示した、普通に前進遊泳しているゾウリムシの膜電位は、比較的安定した−25mVから−30mVぐらいの値を示しています。これを静止電位といいます。この電位は、細胞を外界と仕切っている、細胞膜を介して発生しており、細胞の外側に対する細胞の内側の電位を指します。(ゾウリムシの膜電位記録の方法についてをupする予定です。)

(2)で示したように、ゾウリムシが障害物に前端部をぶつけると、ゾウリムシの膜電位はプラス方向にシフトします。この方向の電位変化を脱分極性の電位変化、あるいは単純に膜が脱分極したといいます。(脱分極という言い方について)この脱分極により、繊毛膜にある電位依存性のCaチャンネルが開きます。電位依存性のCaチャンネルが開き、Caイオンが細胞内に流入すると、細胞の電位がプラス方向に変化します。これにより、さらに、多くの電位依存性Caチャンネルが開き、また、電位がプラスになるという、正のフィードバックが生じます。このようなメカニズムで発生するのが、全か無かの法則に従う活動電位ですが、ゾウリムシもこの時、まさにCa活動電位を発生します。ゾウリムシの活動電位は正のフォードバックがかかった、自己再生的なものですが、全か無かの法則には従わず、刺激として加わった脱分極により、大きさが変化します。

(3)ゾウリムシがCa活動電位を発生すると、Caイオンが細胞内に流入して、細胞内のCaイオン濃度が上昇します。これが引き金となり、繊毛の有効打の向きが逆転し、ゾウリムシは後ろ向きに泳ぎます(その3を参照してください)。

(4)流入したCaイオンはいつまでも細胞内に留まるのではなく、イオンポンプと呼ばれるタンパクにより、細胞外に排出されます。また、活動電位による流入自体もすぐに終わるので、細胞内のCa濃度は次第に低下してゆきます。これに伴い、繊毛の有効打の方向も次第にもとの方向に戻ります。有効打が丁度前にも後ろにも向かずに、横を向いている時が、ぐるぐる回りと呼ばれる状態で、ゾウリムシは一カ所に留まり、後端部を中心に頭を回します。最終的にはゾウリムシは前進遊泳に戻りますが、頭を回すことにより、今後の進行方向を試行錯誤的に変えることが可能になります。

(5)ゾウリムシはゆっくりと前進遊泳に戻り、別の方向に泳いでゆきます。めでたく、障害物を回避できたわけです。このような反応性を持たなかったと考えると、ゾウリムシは障害物にぶつかった状態でいつまでも進まない前進遊泳を続けることになるため、有意義な一生はおくりにくいと考えられます。

 

 その3に続く