つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: 24.

理科教育の現場から

高校生物の授業現場から

桑野 加代子 (江戸川学園取手高等学校)

 私は現在、江戸川学園取手中学校高等学校で、中学の理科と高校の生物の授業を担当しています。生物学類から教育研究科に学び、修了後、教師となり4月で10年目に入ります。

 高校時代、生物の授業で生命現象に感動し、生物学を学ぶなら、是非、筑波大学生物学類でと、心弾ませ入学した日が昨日のように思い出されます。充実したカリキュラムと設備で学ぶことができ、生物学類卒業であることは私自身の原点であり、誇りです。そして、より多くの次世代を担う子供達に、私自身が生物学に初めて触れた時に感じた驚きと楽しさ、畏敬の念を伝えたいと教師になる道を選びました。

 私の勤務する高校では、2年生で将来の進路に合わせて、理系と文系に分かれます。おそらく多くの高校も同様ではないでしょうか。文系の生徒は全員生物を履修し、理系の生徒は化学を必修とし、物理か生物の選択になります。 今年度の2年生理系の生物選択者は81名おり、その全員の授業を担当しています。21世紀は生命科学の時代と言われています。そのような中、以前は理系において、物理の選択者が圧倒的に多かったのですが、年々生物選択者の割合が増加し、中等教育における生物教師の役割を強く認識しています。生物選択者の多くは、将来、医師、生命科学系の研究者、教師になりたいとの夢を抱いていたり、純粋に生命現象への興味を持っていたりということで、授業への取り組みも大変熱心です。生物を履修し始めたばかりの高校2年生の前期は、なるべく実験を多く取り入れ、生徒自身で試薬の調整から取り組ませようと工夫しています。実験の基本を身につけ、研究する楽しさの一端でも感じてもらえればと新たな実験にも挑戦したいのですが、材料の調達や器具・設備のレベル、授業時間の関係で、なかなか新しい実験を指導することが難しくなっています。 

 また、近年、大学入試においても最先端の研究内容に踏み込む出題が多くなってきているように思います。入試問題だけでなく、日常生活の中にも生命科学の最先端の内容が多く関わってきています。そのような背景から、教科書の内容だけに留まらない発展的な内容に踏み込んだ授業に取り組んでいます。幸い、インターネットを利用することによって、誰もが最先端の研究内容や発表された論文を閲覧することが可能になっています。中にはサイエンスやネイチャーなどのオンラインページを見て、質問してくる生徒もいます。そして、現在、学校全体で取り組んでいるのが、ネット課外(インターネット上での課外授業)等のインターネット上での教育活動です。コンテンツは教師自身の手で、市販のホームページ作成ソフトで作成しているのですが、最も苦しむのは画像や資料等のデジ タル素材の不足です。高校教師一個人で撮影したり収集できる素材には限りがあります。インターネットで素材に ついて調べてみても、小中学生向きのものに比べると、高校生向きのものは少ないのが現状です。今年になって、文部科学相の諮問機関である文化審議会の著作権分科会が著作権法改正に関する報告をまとめたり、文化庁がホームページ用の「自由利用マーク」を作成して普及を図る等、積極的な動きを見せていますが、実際の現場で十分活用できるようになるまではまだまだ時間がかかりそうです。

 つくば生物ジャーナルの創刊の構想には、「つくば生物オープンコミュニティ」の形成や小中高の生徒や教師を対象にした体験学習プログラムもあると伺っています。今までも、在校生が大学説明会や菅平・下田での体験学習に参加させて頂き、大変お世話になりました。現場で指導する教師自身が、最新の実践的な実験・観察の手法を学んだ り、技能を高めたり、さらにはその実験・観察、体験学習の内容をデジタルコンテンツにして活用することができれば、そのことが結果として、多くの生徒達の生命科学に関する興味関心を高めることになると考えます。そして、何よりも、教師自身が体験学習によって感動することが、生徒達を感動させることになるのです。  このジャーナルによって、自分自身が生物学類の卒業生であることや高校の生物教師としての使命を強く認識することができました。今はスタートして間もないですが、きっとこの活動が日本の科学教育を変えていくと信じています。 

Communicated by Fumiaki Maruo, Received February 10, 2003.

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