つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 7: 326.

留学

ロンドン大学院生活を終えて

金森 サヤ子 (筑波大学 生物学類 平成13年度卒業)

 私は1年2ヶ月のロンドン生活を終え、2週間ほど前に日本に帰国しました。帰国してわずか2週間ですが多くの友人と再会し、様々な場所に足を運んだせいか気分的にはもう数ヶ月くらい経ったようです。ロンドンで過ごした時間は長いようで短く、そしてそんな自分の気持ちを思うと、日本を離れて過ごした院生生活の時間はやはり、自分にとって非現実であったような気もします。

 私はロンドンの大学院では大学在学中に学んだ生物学からはだいぶかけ離れた、公衆衛生学や疫学、広くは開発学のような学問を始めました。そのような分野で修士号を取得したとはいえ、やはり1年程度の知識なので自分の中ではまだまだ発展途上ではありますが、院生生活後半は学術的のみならず、人間的に多くのことを学んだ時間であったと思います。卒業研究のために生活したバングラデシュは強烈でした。首都であるダーカのスラム街の人たちを対象に一ヶ月間、どのような行動や環境が下痢を引き起こしやすいか、ということを探る研究を質問票と観察によって行っていました。日本人の一般的な感覚からいったら信じ難いことですが、現在では石けんを使った手洗いを促進するだけで42〜47%もの下痢を防げるとも報告されています。新薬やワクチンを開発したりするよりももっと身近なところで病気を防げるのみでなく、生活の質を向上できる。そんな現場を日本でも映像や話として聞くことはあっても、現状を自分の目で見、肌で感じ、足で歩き、生身の人間と触れ合う体験は一味も二味も違いました。今まで出会ったことのない、想像を絶するくらい貧しい人たちがせまいせまい空間にたくさんの家族と生活している。でも、彼らの心はとても大きく、精一杯生きていて、とても生き生きしていた。人間らしかった。学校にも行けないような人たちだけれど、自分たちがどうしてそこで生きているのか、といったアイデンティティーも持ち合わせており、忙しい時に流されて働いている経済的には恵まれている人たちよりも、よっぽどしっかり生きている気がした。全ては貧しいから、なのだろうけれど。でも、それでも彼らは幸せそうだった。自分たち以外の世界を知らないから、なのかもしれないけれど。

 私は就職を決めないまま帰国しました。今、インターンとして政府委託機関で勉強兼仕事をしているけれど、職業欄に何とかけばいいのか迷うとき、自分の位置の不安定さを実感します。でも、日本を離れて生活した間に感じたり、考えたりしたたくさんのことを消化不良のまま、焦って仕事を決めるということはしたくなかった。妥協しているかもしれないであろうことを、自分で気づかないふりをして通りすぎていくのはいやだった。せっかくものを食べても、きちんと自分で消化して吸収しないと栄養分が体の外に出ていってしまって意味がないのと一緒。なので、この不安定な自分の時間も、私は大事にしようと思って今生きています。すぐに形に現せなくてもいい。いつか、何かを成し遂げたいと思うようになりました。せっかく一度きりの人生なのだから、思いっきり大冒険したいものです。6時間の筆記試験だって、1ヶ月で修士論文を書き上げることだって、やる前は引け腰でもやってみればなんとかなるものです。

 日本語が変なのか、もともとの文章力がなさのせいか、それともその両方のせいかまとまらない内容になってしまった気がしますが、ご意見ご感想等ありましたらsayasaya24@hotmail.comまで。

Communicated by Jun-Ichi Hayashi, Received October 15, 2003.

©2003 筑波大学生物学類