つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312II.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

井上 勲 筑波大学生物科学系教授

(生物科学系長、植物系統分類学)

 卒業研究で千原先生につくことがきまった昭和49年の2月でしたか、「君がやりたい研究材料は春になるといなくなるよ」と先生に言われました。実は、それはうそで、本当は一年中どこにでもいる藻類だったのですけれども。そんなことがあって、台風なみの季節風で荒れる2月の下田に行ったのが下田臨海実験センターとの研究上のおつきあいの始まりでした。わたしは微細藻類という鞭毛(べんもう)を持って泳ぐ藻類をやりたかったのですが、その中にクリプト藻というのが下田のタイドプールの中にいるという話で、それで下田に行って採集して培養することを試みたのです。それがきっかけで、それからずっと微細藻類の研究に携わっています。

 最近の下田を使った研究を一つ紹介します。去年、私が指導していた学生がセンター前の鍋田浜で採集して培養した鞭毛虫の細胞の微細構造の観察と遺伝子を用いた系統解析をしたところ、これは未知の原生生物で、まだどこにも記録されていないグループであるということが分かりました。そこで、新しいクラス(分類上の綱という階級)として発表しました。まだまだ僕たちが知らない世界が下田の海にはあるということを感じています。

鍋田湾内で採集された微細藻類(捜査型電子顕微鏡像)

 下田のセンターは、東京文理大学から東京教育大学を経て現在の筑波大学に至るまで、私どもの大学の生物科学分野の研究と教育上の独自性をアピールする拠点として機能してきたと私は思っています。今後のセンターについていえば、独法化を控えて大変だとは思いますが、下田は生物多様性研究に関して一流の仕事をして、そのことを積極的に発信してほしいと願っています。筑波キャンパスともっとうまく連携していけば、下田臨海実験センターは、国内だけでなく、国際的な海洋生物の多様性研究の拠点として発展していく可能性が大いにあると思います。また、充実した施設、設備に加えて、全国の臨海実験施設のなかでは最も交通の便がよく、生活環境が恵まれているという利点がありますので、全国の共同利用施設としても十分やっていける素地を持っているのではないかと思っています。その辺のことを是非積極的に考えていただいて、これまで以上に発展していってほしいと願っています。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類