つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312JH.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

林 純一 筑波大学生物科学系教授

(生物学類長、生化学)

 下田の臨海実験センターは、特に今年もう開設70周年ということで、ここでの伝統的な研究教育活動は生物学類の学習プログラムの中でも極めて重要で、その根幹をなすものであるというようにとらえています。生物学の研究教育領域は非常に広くて、最近では核移植を用いたクローン動物の作製、あるいは遺伝子治療とか、遺伝子改変食品、さらには再生医療とか、そのような樣々な分野が生物学の応用分野として発展してきています。

 その一方で、他の多くの大学では、売れ筋ではないということでベーシックな分野というのはリストラされる傾向にあり、ほとんどが絶滅してしまいました。しかしわれわれは、例えば系統分類学とか生態学とか、あるいは生理学、発生学とか、そのような伝統的な生物学の領域も非常に大事にしています。その理由は、基礎をきちんと学んでもらうことによって、学生にナチュラリストとしての洗脳を与えることが重要だと思うからです。今まで教科書で、写真でしか見たことがない、あるいはビデオでしか見たことがないという部分に関して、生きていることの素晴らしさ、生命の美しさを、実際に下田の臨海実験センターで観察し、研究してもらう。それで感動してもらって、そして生物学の様々な分野の研究に入ってもらう。そのような部分では、下田臨海実験センターというのは、われわれとしてはとても大事な研究教育の場所である、と考えています。

自然の動植物に直接触れて観察する臨海実習

 下田臨海実験センターで、ナチュラリストとしての教育を受けた生物学類生は、その後色々な職業に就くことになります。研究職でいえば、様々な学部、例えば医学部、農学部、工学部、薬学部など、人の役に立つことの重要性を学んだ卒業生と職場で競合することになるわけです。いわゆるモレキュラー・バイオロジストとか、あるいはバイオテクノロジストとか、そのような人たちとの競合というものが当然出てきます。その中で、やはり同じバイオテクノロジーの分野で活躍するにしても、生物学の基礎をきちんと学んで、生命現象の多様性やその美しさに感動した人間というのは、実学を学んだ人間とは一味違った個性、創造性が出せるのではないでしょうか。この点こそが、われわれ筑波大学生物学類卒業生としての、非常に重要な部分であり、そのような研究教育を行う拠点の一つとなるのがこの下田臨界実験センターなのです。国立大学法人化後も、生物学類の研究教育活動、社会に対する啓蒙活動の拠点としてますます発展することを願っています。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類