つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312ON.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

沼田 治 筑波大学生物科学系教授

(生物科学研究科長、下田センター運営委員、細胞生物学)

 私が学生だったころ、今から30年位前になりますが、下田で行 われた動物分類学の臨海実習に参加して生物のすばらしさを実感しま した。もうお辞めになった技官の植田一二三さんが「あかね」に乗って、 プランクトンネットを引っ張ってくれました。いろいろなプランクト ンやベントスを捕って顕微鏡で観察しました。私にとって始めて見る 生物たちの形が面白くて、100枚ぐらいスケッチを描きました。実習 中、とにかく生き物の形をスケッチすることが楽しくて楽しくて、描きまくっていました。あのころ、関口晃一先生が動物分類学実習を担当なさっておられましたが、実習の最後の日に「試験をします」とおっしゃるのです。みんながどのようなものを見たか試験するために、20枚ほどのプランクトンのスライドを示して「これは何だ?」、その生物名を書きなさいというのです。ところが僕はスケッチを描きまくっていたが、種名は全く調べていなかったから、形は分かるのだけれども、なんと言う生物なのか分からない。何にもできない。20題ぐらい出された中で、できたのは5題ぐらいしかなくて、5題もなかったかもしれない。クラスの中で最低でしたね。だけれども、調べることをちょっと怠ったのだけれども、見て、観察して、スケッチを描くということがすごく楽しくて、「こんなに素晴らしい形をした生物がいるのか」と、海の生物に本当に感動しました。

プランクトン採集で見られるフジツボのノウプリウス幼生と脊索動物のオタマボヤ

 同じような感動は発生学実習でも経験しました。ウニの発生を見て、受精膜があがった、卵割が始まった、幼生が泳ぎ始めた、そういう一つ一つの現象に本当に感動して楽しいと思いました。実を言うと今やっている研究が、細胞分裂の分子機構の研究なのですが、ウニの卵割を見て感動したことが、そのまま今まで尾を引きずっている。これまでの30年間、あそこから始まったのではないかという気がします。とにかく下田では感動することばかりで、生き物の面白さというのを下田の臨海実験センターで得たのではないかと、そのように思います。

 ですから僕は、臨海実習と言うのが非常に大事だと思います。本当にあのような経験が後の研究者人生を左右するのではないかと思います。下田臨海実験センターでスタッフの皆さんが続けておられる学類生対象の臨海実習、大学院生対象の公開臨海実習、高校生対象の臨海実習、それらは是非是非、大事にしていってほしいと思います。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類